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第36話 セントリーマ


「ここは・・・・・・牢屋、か?」

 ジョグのいる場所へと転移門を繋いだはずだが、出てきた場所はどう見ても牢獄の中だ。

 他に囚人の姿が見えないところを見ると、どうやら独房らしい。


「何があった?」

「実はの・・・・・・」

 ジョグは事の顛末を話し始めた。

 街の守衛に紹介状を持ってきたことを伝えると、大聖堂に連れていかれた。

 しばらく待たされた後、聖騎士に取り囲まれてこう言われた。

『タンバサ国王からの紹介状を偽装し我らを謀ろうとは笑止千万。貴様の罪は重いぞ!』

 そこからは問答無用で取り押さえられた。

 抵抗すれば逃げることも出来たが、今後の話し合いを考えると手を出さない方が良いと判断した。

「なるほど。抵抗しなかったのは良い判断だな」

「そうじゃろ」

「とりあえず、その大聖堂ってところに行ってみよう」

 アトスは牢の扉を難なく開錠する。

「道は分かるか?」

「あぁ。連れてこられた道は覚えておる」

「よし。見つかると面倒だ。走るぞ」

 二人に持続強化×20をかけて猛スピードで移動する。

 あまりに速いため、衛兵達は何かが移動していることは認識できてもそれが何なのか判別できない。


 アトスとジョグは大聖堂の中心部らしき所に来た。

「さて、どうしたものか」

 最上位の者にシャルロからの紹介状を読んでもらいたいのだが、恐らくそこまで話は伝わっていないだろう。

 ジョグが渡した紹介状も破棄されている可能性もある。

 シャルロに来てもらった方が早そうだなとアトスが考え始めたその時、聖騎士がなだれ込んできた。


「貴様達、ここで何をしている!」

「一番偉い人に合わせてくれないか」

 ダメ元で尋ねるアトス。

「っ! 貴様、さっき捉えた不審者だなっ! 脱獄したのか!」

 聖騎士の一人がジョグに気づいたようだ。

 これはまずいなとアトスは思った。捕らえられる前に、何とか交渉に持ち込まねばならない。

 抵抗する訳にも行かないが、捕まるわけにも行かない。

「やれやれだ」

 仕方なく、アトスは結界を張る。

「きっ、貴様! 大人しく捕まらないと罪が重くなるぞ!」

「そもそも罪などないはずだ。俺達はただ話をしに来ただけだからな」

「これ以上戯言を抜かすと天罰が下るぞ!」

「天罰? 人罰の間違いじゃないのか」

「なっ!? 貴様、我等を愚弄するか!」

「愚弄などしていないが・・・・・・」

「我等が罰を下すなどど抜かしおったろうが!」

「罰を下すと言うのが愚弄したことになるのなら、お前達は天を愚弄しているのか?」

「貴様、我等をコケにする気か!!」

 やれやれ、話にならん。

 宗教の是非はどうでも良いが、宗教に陶酔する人間の理屈の通らなさが苦手なんだよ。

 アトスは心の中でボヤく。


「我等の命に従わぬ者がおるのかえ?」

「大司教様!」

 アトスの望み通り、お偉い様が来たようだ。

「ふむ。この者達が我等を謀ろうとしていた者達かえ?」

「はっ。左様でございます」

「ほっほっ。お主ら、大人しくせんと天罰が下るぞえ」

「天罰? お前達が罰を与えようとしているだけじゃないのか」

「我は天啓を受けたもうておるでな。すなわち天罰じゃ」

「なんだ、お偉い様が天を愚弄しているのか。お前達の都合に天を利用しているだけだろう」

「ぬっ、ぬぬぬ!! 貴様ら、生きて帰れると思うなえ!」

 なんだコイツは。宗教国家のお偉い様ともあろう者が、こうも簡単に人を殺めようとするとは。

 しかも、はなから話を聞く気もないとはどういうことだ。

 こんな奴らに構ってる暇はない。仕方ない。しばらく動けなくさせてもらおう。

 アトスはその場に居る全員を結界のロープで縛り付ける。

 ただのロープではないため、アトスが解除しない限り解けない。


 さて、と。

 この状況でシャルロを呼んでも上手く行かない気がする。

 どうしたものか。

 アトスが思案していると、誰かが入ってきた。

「ふむ。これはどういう状況かな?」

「教皇聖下!」

「この者共が我等に無礼を働き、その上このように武力を持って我等を拘束したのです!」

「ほう。この二人にそれほどの力があると言うことか。君達、大司教の言ったことに違いはないかね?」

「間違いだらけだ。俺達はタンバサ国王からの紹介状を持って話をしに来た。だがこいつ等は全く耳を貸さず、武力を持って取り押さえようとしてきた。だから仕方なく拘束させてもらった」

「なるほど。大司教、この者の言ったことに違いはないかね?」

「ウ、ウソです。こやつ目が言ったことはウソです!」

「なるほど。では、枢機卿。どちらの言い分が正しいのか教えてもらえるかな?」

「はっ。その者の言うことが真実であり、大司教は嘘を言っております」

 拘束されたまま、一人の聖騎士が話す。

「なっ!?す、枢機卿!」

 大司教は知らなかったようだ。


「君、今話した彼の拘束を解いてもらえないかな」

「アトスだ。こっちはジョグ」

 名乗るとともに、アトスは枢機卿の拘束を解除する。

「アトス。君はタンバサ国王からの紹介状を持ってきたと言ったね?」

「あぁ」

「その紹介状を見せてもらえるかな?」

「ジョグが聖騎士に渡してからはどこにあるのか分からない」

「聖下! そやつは紹介状など持っておりませぬ。それこそが嘘だという証でございます!」

「ふむ」

 教皇は思案する。

 大司教の言うことが嘘であることは間違いないが、紹介状の有無については大司教たちが処分したという証拠もない。証拠もなしに断罪する訳にはいかない。

「仕方ない。シャルロを連れてくるから直接聞いてくれ」

「貴様、逃げる気か!」

 大司教の声を無視してアトスは転移門を開く。

「ほう、面白いことをするね」

 教皇は少し驚いたようだが、それよりも感心している。


「シャルロ、セントリーマに来て欲しい」

 転移門をくぐり切らずに声をかけるアトス。

 その輪から現れたシャルロに、教皇が親しげな笑みを浮かべて挨拶をする。

「シャルロ、久しぶりだね。元気そうでなによりだ」

「やぁ、ファティウス。君も相変わらず元気そうだね」

 シャルロと教皇──ファティウスは親しげな様子だ。

「何があったんだい?」

 シャルロが尋ねる。

 ファティウスが説明し、アトスとジョグが補足する。

「なるほどね。俺が紹介状を書いたのは本当だ。各国宛に緊急の要件があってね」

 今度はシャルロが紹介状を書いた経緯を説明する。

 さらに、アヌグラ・マニュー団の企みやこれまでに起こった異常についてはアトスが詳しく説明する。

「アヌグラ・マニュー団、ね。大司教、聞いたことはあるかい?」

「い、いえ、そ、そのような、組織の名はき、きき、聞いたことがありませぬ」

 大司教はかなり動揺している。

「そうかね? 確か君は黒い法衣を来て何やらこそこそ行動していたね? もしかして、君はアヌグラ・マニュー団の一員なのかい?」

 教皇はアヌグラ・マニュー団を知っていたかのように、大司教に問い正す。

「ちっ、バレたら仕方ない。そうだよ。俺はアヌグラ・マニュー団の幹部だ」

「「「なっ!?」」」

 どうやら聖騎士団のほとんどは知らなかったようだ。

 純粋に位の高い者の指示に従っていただけらしい。

「どうせもうすぐお前達は滅亡する。我等の計画が間もなく完遂するからな!」

「ふむ、それは困ったね。シャルロ、君の言う通りのようだ」

「アトスが報せてくれたんだ」

「アトス、礼を言うよ。君が居なければ我々の国、いや、世界が危ういことに気付きもしなかった」

「あぁ。だが、まだ何も状況は変わっていない」

「そうだね。各国と連携して、なんとしてもアヌグラ・マニュー団の計画を止め無ければならないね」


 どうやらセントリーマの協力を得ることは出来そうだ。

 これで残すはあと三国。


「アトスとその仲間が動いてくれる。我等はいつでも彼らの招集に応じる準備をしておく必要がある」

 シャルロがファティウスに言う。

「ふむ。アトス達にはそれだけの実力があると?」

「あぁ、間違いない。少なくともアトスは俺の数倍は強い」

「へぇ、君の数倍。それは凄いね」

 聖騎士たちもざわつく。

 シャルロの強さはセントリーマでも有名で、特に騎士団にとってはシャルロとアイリンは神のような存在なのだ。

 聖教徒たる聖騎士がその神と教皇以外を崇めるのはどうかと思うが、当の教皇自身がシャルロを同等以上の存在と認めているため問題にはなっていない。

「アトス、聖騎士達にその実力の片鱗だけでも見せてやってくれないか」

 シャルロが言う。理由はさきのユマラン国での一件と同じだろう。

「それは良いんだが、ファティウス。聖獣って知っているか?」

「もちろんだ。特に四聖獣と呼ばれる神の御使いは我が国の崇拝の対象だよ」

「だとさ」

「ほっほっ。それは中々、素晴らしき事じゃの」

「霊亀の姿に戻って見せてやればいい」

「霊亀? いま霊亀って言ったかい?」

 ファティウスが半ば興奮気味に言う。

「あぁ。ここに居るジョグは霊亀だ」

「「「「えぇーーーっ!!!」」」」

 聖騎士達の叫び声が大聖堂に響き渡る。


「では」

 一言断りを入れてから、ジョグが霊亀の姿に戻る。

 ・・・・・・

 ・・・

「「「「おぉ・・・・・・霊亀様!」」」」

 一瞬の静寂の後、眼前に出現した聖なる獣『霊亀』を崇める聖騎士達。

 教皇、枢機卿も祈っているのか拝んでいるのか、手を合わせ、目を閉じている。

 ほんの少し待ってから、ジョグが言う。

「アトスはの、我等四聖獣の主なのじゃ」

「「「「な、なんですとーーーっ!!!」」」」

「ま、成り行きでな」

「ほっほっ。当然のことじゃ。なにせアトスは聖人じゃからの」

「「「「聖人様!!」」」」

 陶酔したような表情でアトスを崇める聖騎士達。

 やれやれだと言わんばかりにため息をつくアトス。

 目を覚ましてやるかと、いきなり【封殺超爆発プリズンド・エクスプロージョン】を放つ。

 激しい閃光とともに大聖堂の外にまで漏れ出るほどの轟音が鳴り響く。

「とんでもない魔法だね。シャルロの言った意味が分かったよ」

「だろ?」


 こうして、半ば崇拝に近い信頼? を得たアトスとジョグ。

 セントリーマは対アヌグラ・マニュー団戦線に参加することとなった。


「シャルロ、またゆっくり会おうね」

「そうだな。その時を楽しみにしているよ」

 別れを惜しみつつ、二人はそれぞれの職務に戻って行った。


 残る三人の動向は果たして・・・・・・。


次話は明日アップ予定。


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