第28話 出立
アトスに気づいたマサムネが何かを手に持って近づいてくる。
「できたぞ」
それは、マサムネが開発していた『もしブロック』と『反復ブロック』だった。
まだ試作品の段階ではあるが、魔法具開発キット一式が完成したのだ。
もっとも基本的であり、根幹となるブロック群。
それが、始まり・条件・もし・反復・処理の五つだ。
細かく言えば、始まりのブロックにはめ込む専用の『常設型トリガー魔法』ブロックがあるのだが、これは条件ブロックの一種である。
「ついにできたか」
アトスは早速その動作を確認する。
始まりのブロック・・・・・・OK
条件ブロック・・・・・・OK
もしブロック・・・・・・OK
反復ブロック・・・・・・OK
処理ブロック・・・・・・OK
「完璧だ。さすがはマサムネだな」
「いや、皆の助言のおかげだ」
「この魔法具開発キットは『マジグラミン』と呼ぶことにする」
「マジグラミン、か。面白い名だな」
マサムネが今後の方針について尋ねる。
「で、どうする? これを量産するのか?」
「そうだな・・・・・・量産もしたいが、まずはこれをセットする道具を作る必要がある」
「ふむ・・・・・・」
「単体で使うなら魔法の手でいいだろ? これは、武器や防具、さらには生活用具と組み合わせて使うものなんだ」
「組み合わせる?」
「あぁ。魔法素材で作った道具に、魔法の代わりにこれをセットする。道具自体に魔力を供給さえできれば道具が魔法具になる。それも、使用者自身がこのキットを使って自由に作れる魔法具になるんだ」
「それは面白そうだが・・・・・・理解されるのか」
「それについては考えてはいるが、まだ先の話しだ。まずは簡単なスターターキットを用意しようと考えている」
「どのようなものだ?」
「・・・・・・まだ案が出ていない。魔法具との差別化が必要なんだ。固定用途なら魔法具の種類として作ればいい。こっちは、使用者が独自の魔法具を作れる、というところがミソなんだ」
「難しいな」
「あぁ。だからまずは、道具と魔法具開発キットの検証用にこんなものを作ってみてくれ」
アトスは『どこでも蛇口』という、レバー式蛇口にダイヤルが付いた魔法具の絵を描く。
「これにマジグラミンをセットして魔法具として動かせるかどうか確認したい」
マサムネはすぐに試作を始める。
「サダムネ、そっちはどうだ?」
「できている。デモ用の魔法を動かせたから、十個作成済みだ」
アトスは眼鏡型魔法具を一つ手に取り【探索映写】をセットする。
そして、魔力供給用の魔法石をセットしてフレーム上のボタンを押す。
アトスの眼前に等間隔に広がっている十個の円が映し出される。
「これが探索結果なのか」
目の前に映し出された映像を見てサダムネは感動しているようだ。
「あぁ、そうだ。実際に魔物を探知させてみたいな」
そう言ってアトスはAIに確認する。
常時探索で探知した魔物数体を攻撃せず、素材転送の応用でここに転送できないか? と。
その瞬間、アトス達の目の前に三体の魔物が出現した。
アトス以外の者が戦闘態勢を取ろうとするが、アトスがそれを制す。
「この魔法具『鷹の目』の検証用に連れてきただけだ」
確かに魔物はアトスの魔力で動きを封じられており、危険はないことが見て取れた。
アトスはまたもやとんでもないことを平然とやってのけたのだが、三人はもはや慣れっこと言った感じに見守る。
再びアトスは鷹の目のスイッチを押す。
眼前に映し出された等間隔の円、その中に赤い小さな丸が三つ映っている。
アトスは魔物を移動させ、再びスイッチを押す。
すると、先ほどと違った位置に赤く小さな丸が映し出される。
「よし、成功だな」
「これは素晴らしい。これがあれば、旅人の安全性がグンと上がる」
サダムネは先ほどよりもさらに感動している。
「量産を頼みたい」
「あぁ、任せろ」
──
アトスは完成した鷹の目を収納し、転移門を開く。
その先は王家の応接室だった。
「アトス! 来てくださったのね」
「ちょっと見せたいものがあってな」
そう言ってアトスは鷹の目を一つ取り出す。
「眼鏡ですか?」
「これは鷹の目という魔法具だ。ここのスイッチを押すと、こんな風に半径100mを探索して結果を映し出すものだ」
「円が沢山映しだされましたけど、これは?」
「魔物が居たら赤い丸で教えてくれるんだが、さすがに王都の中に魔物は居ないようだな」
ガチャリと扉が開き、シャルロとアイリンが入ってくる。
二人にアトスが来たことを伝えるよう、サラが侍女に頼んでいたのだ。
「アトス、来ていたのだな」
「あぁ。これを見て欲しくてな」
「ふむ、これは眼鏡か」
「新しい魔法具だ。鷹の目と言って、半径100m以内に魔物が居るかどうかを確認できる」
「眼鏡をかけると見えるのか?」
「いや、ここのスイッチを押すと・・・・・・」
そう言って再びスイッチを押す。
眼前に十個の円が映し出される。
「これは・・・・・・何なのかしら?」
アイリンが不思議そうに尋ねる。
「近くに魔物が居ないと、円しか映し出されないんだ」
「そうなのね」
アイリンだけでなく、シャルロもサラもまだよく分からない様子だ。
「三人ともついてきてくれ」
アトスはマサムネ工房へと転移門を開く。
「お、おいおいアトス。とんでもないお方たちを連れてきたな・・・・・・」
さすがに呆れ、恐縮するマサムネ達。
それを全く意に介さず、アトスはシャルロに言う。
「鷹の目のスイッチを押してみてくれ」
「「「・・・・・・!」」」
マサムネ達は王にため口で話すアトスに絶句する。
だが、王本人は全く気にしていない。
「こう、か?」
シャルロがスイッチを押すと、赤い丸が三つ映し出される。
先ほどここに連れてきていた魔物たちだ。
「それが魔物だ」
それを聞くなり、シャルロは少年のような顔で赤い丸の方へ走り出す。
「あらまぁ、あの人ったら」
同じく楽しそうな笑みを浮かべてアイリンが後を追う。
シャルロが柄に手をやった瞬間、二体の魔物が真っ二つになった。
しかし、シャルロの剣は鞘に収まったままだ。
「そっちは君に残しておいたよ」
「えぇ。こっちは任せて頂戴」
残っていた一体の魔物がスーッと空に浮かび上がる。
アイリンの指先から凄まじい威力のレーザーが放たれ、瞬く間に魔物を飲み込んだ。
オトの聖炎砲の数倍どころではない威力だ。
「お父様もお母様もはしゃぎすぎです」
童心に返って楽しんでいた二人をサラが諫める。
「普段は騎士団に任せっきりで楽しめないからね」
「そうよ。久しぶりなんだからはしゃいでもいいじゃない」
どうやらシャルロもアイリンも立場上、自らが戦いの場に立つ機会は中々無いようだ。
「只者ではないと思っていたんだが、二人ともとんでもないな」
「あら、アナタほどじゃなくてよ?」
「全くだ」
二人とも、アトスには言われたくないようだ。
「俺にはシャルロの剣は見えなかったし、アイリンの魔法にも驚いた。参考にさせてもらうよ」
「それは嬉しいね」
「鼻が高いわ♪」
アトスにそう言われて二人とも上機嫌である。
「そろそろ戻った方がいいんじゃないかしら・・・・・・」
サラが心配そうに言う。
「おっと、そうだね。早く戻らないと大騒ぎになってしまうよ」
アトスは急いで転移門を開く。
──
「陛下、お戻りでしたか!」
息を切らせながら走って来たのはクリフだ。
「あぁ、ちょっとね。心配をかけてしまったな」
「クリフ、いつもありがとうね」
「いえ。ご無事で何よりです」
「そんなに慌てて何かあったのか」
事情がよく分からないアトスがクリフに尋ねる。
「・・・・・・アトス殿か。理解した」
「? 何のことだ?」
「一国の王が姿を消されたのだ。国全体を揺るがす大事件になりかねないんだぞ、全く」
「ちょっと出かけただけなんだが」
「せめて行き先を伝えていってくれると助かる」
「そうか、済まない。次からはそうする」
次があるのか、とクリフは苦笑するしかなかった。
「では、私はこれにて失礼します」
そう言ってクリフは去って行った。
大慌てであちこち走り回っているであろう騎士団員たちにも知らせなければならないのだ。
そんな苦労をアトスが知る由もなく。
「で、この鷹の目なんだが」
アトスは本題に入る。
「三人に一つずつ渡しておこうと思ってな」
「あら、魔法具は販売するのではなくて?」
「あぁ、その通りだ。すぐ売り切れるだろうし、まず三人には持っていて欲しいと思ってな」
「ありがたく頂戴するよ」
それからしばらく三人は談笑する。
新しい魔法具の案についても話をすると、皆が目をキラキラさせていた。
それから、鷹の目は眼鏡型じゃなくても良いのでは? なんて案が出たりもした。
確かにその通りだなとアトスは思い、改良案についても語り合った。
「もう行くのかい?」
楽しい時間もそろそろ終わりを告げそうな頃、シャルロが尋ねる。
「あぁ。まずはユマランという国に行ってみようと思う」
「良いところよ。商業が盛んで色んな国から人が集まっているわ」
「それは楽しみだ」
「アトス、必ず、また来てくださいね」
今にも泣きだしそうな顔をしたサラが、アトスの手を握り懇願するように言う。
「あぁ。また来る」
そう言って、アトスはサラの頭を優しく撫でる。
その様子を眺めて、微笑むシャルロとアイリン。
「じゃ、また」
アトスは転移門を開く。
──
アトスは鷹の目の完成品を全て受け取り、サダムネに改良案を伝える。
今度は眼鏡ではなく、鷹の彫像のような見た目にするようだ。
わざわざ眼鏡をかけなくても良いように、ということでもある。
鷹の目はかけなくても使えるのだが、どうしても見た目に引きずられてしまうところはあるのだ。
「マサムネ、サダムネ、引き続き開発を頼む」
「「あぁ、任せておけ」」
「ジョグ、行くぞ」
そう言って、次は騎士団の詰所に移動する。
「もう行ってしまうのか」
ジャンヌが残念そうに言う。
「他の皆にもよろしく伝えてくれ」
「あぁ、伝えておく」
「オト、ショウ、行くぞ」
「皆、またね」
「よい修行になった。またな」
こうしてアトスと三聖獣はタンバサ国の王都、ホターラカを後にする。
ユマラン国の王都、商業都市オービを目指して。
次話は明日アップ予定。
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