第27話 霊亀vs水竜
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水竜が片翼を動かすだけで、大きな津波がジョグを襲う。
アトスは結界を足場にして上空に逃れている。
結界を張れば地上に居ても特に問題はないのだが、ジョグと水竜の戦いをより見やすくするため上空に移動したのだった。
ジョグは巨大な亀の姿になって──こちらが霊亀の本来の姿だろう──津波に耐えていた。
さすがに水に対する耐性は高いのだろう。
続けざまに水竜が猛烈な勢いで水を吐き出してきたが、甲羅でなんなく弾く。
そのままジョグはとても亀とは思えない猛スピードで突進する。
激しい衝突で海が割れそうになっていたが、両手でブロックした水竜にダメージは無さそうだ。
水竜の鋭い爪がジョグを襲う。ジョグはその強靭な甲羅で防いだが、甲羅に大きな爪痕が残る。
ジョグにとって最大の防御力を誇る甲羅に傷をつけられた。
つまり、水竜の攻撃を受け続けるのは非常に危険だということだ。
ジョグは機動性を高めるとともに的を小さくするため人の姿になった。
水竜は息もつかせぬ怒涛の連続攻撃を仕掛ける。
鋭い爪を振り回すだけで空気が裂け、翼を振るえば暴風が吹き荒れる。
尻尾をぶん回せば大地が激しく揺れ、吐き出す水流は海を割る。
ジョグはギリギリのところで躱し、耐え凌いでいる。
幾度となく水竜の攻撃を躱し続けているジョグに、業を煮やした水竜が大技を仕掛ける。
左右の翼で竜巻を起こし、ジョグの退路を断つ。
さらに両手を大きくぶん回してジョグを誘い込み、力を溜めた水流を放つ。
「ここじゃ!」
ジョグはそれを狙っていたのか、水流をすんでのところで躱しつつ、猛スピードで水竜めがけて突っ込む。
人型の身体を丸めて全身を甲羅で覆い、高速の体当たりをかますと、その速度と硬度で水竜の身体を突き抜けた。
水竜は大きなダメージを負ったかに見えたが、見る見るうちに傷が修復していく。
「高速再生か。これはちと厄介じゃの」
このままではマズいなとアトスは感じていた。
だが、さっきジョグが言った言葉に引っかかっていたため、もう少し様子を見ようと考えている。
ジョグは確かに『今の儂ではちぃとしんどいかも知れん』と言った。
まだ進化するのか? それとも、別の何かがあるのか?
どちらにせよ、オトとショウがそうであったように、ジョグも修行を必要としているのかも知れない。
ならば、ジョグの戦いを止めるわけにはいかない。
もちろんもう無理だと判断したらそこで止めるつもりではいる。
それまでは見守ることに決めていたのだ。
ただ、今のままではジリ貧のため持続強化を20倍に引き上げ、自動回復でジョグの安全を担保しておく。
強化レベルを引き上げたおかげで、ジョグは水竜の攻撃を少し余裕を持って躱し始める。
隙をついて手先だけを甲羅で覆って超硬突きを繰り出し水竜にダメージを与える。
じわじわと水竜にダメージが蓄積していく。
ヒットアンドアウェイを繰り返し、水竜を追い詰めていくジョグ。
とても『亀』とは思えない華麗な戦いぶりだ。
だが、アトスは水竜の威圧感が増していっているように感じていた。
倒せるのなら今のうちに倒しておかなければマズいことになる。そんな予感さえあった。
そしてそれは、ジョグ自身も感じているようだ。
ジョグの渾身の突きが水竜のお腹にめり込んだ瞬間、ジョグは魔法を放つ。
肉弾戦を繰り広げながら練っていた魔力で放った彗星は、水竜に直撃した。
さすがの水竜も、これには倒れざるを得なかった・・・・・・ように見えた。
彗星の直撃を喰らい、瀕死に見える水竜の身体が小さくなっていく。
およそ人の大きさ程に縮んだ水竜は、人のような形をした竜であった。
『鑑定します・・・・・・鑑定完了』
種 族: 水竜人
ランク: S6
「S6かよ。ジョグ、そいつはヤバい。変わろう」
水竜人には水竜の力をギュッと圧縮したような迫力があった。
あれだけの存在感、エネルギーを人の大きさに圧縮した。それだけでも脅威を感じざるを得ない。
水竜人は交代を認めない・・・・・・というよりも、その隙すら与えずジョグを倒していた。
造作もなく、ただ近づいて爪で引き裂いただけ。
その動作があまりにも自然で速かったため、何が起こったか理解した時にはすでに事が終わっていた。
自動回復のおかげで一命を取り留めたジョグをアトスの結界が包む。
「後は任せろ」
「よろしく頼みましたぞ」
水竜人の予想外の強さに、ジョグは少しだけアトスのことが心配だった。
全盛期の霊亀なら、おそらく水竜人にも勝てただろう。だから聖人であるアトスは負けるはずがないのである。
それでも、まさかドラゴンが形態変化して強くなるなどとは夢にも思わなかったため、不安を抑えることができなかった。
アトスは肉弾戦は得意ではない。
元々趣味で空手をかじってはいたが、それだけだ。
健康維持程度の筋トレもしていたのだが、あくまで健康のためであっておよそ戦いには向かない。
だが、アトスは『聖人』に進化している。
聖獣を従える『聖人』は少なくとも聖獣より強い存在なのだ。
だからこそ、20倍強化の霊亀と水竜人の戦いの様子もはっきりと認識できていたのだ。
水竜人は標的をアトスに切り替えた。
瀕死となったジョグに興味がなくなった、というのもあるかも知れない。
それよりも、ジョグにかけられている支援魔法や回復魔法がアトスのものだと気づいた。
ならば先にコイツを倒すべきだと判断したのだ。
水竜人は先ほどと同じく自然体で滑らかにかつ超高速でアトスに近づく。
両の手で引き裂く、膝蹴り、頭突き、尻尾、至近距離からの水流等々、全てが一撃必殺級の威力を持った攻撃をとめどなく繰り出す。
そのどれもがAIによる自動防御結界で防がれている。
恐るべきはその一撃一撃がジャンヌの必殺技級の威力と特性を秘めており、普通の結界なら破壊されていたであろう点だ。
幸いにもアトスとAIはその威力の攻撃を経験済であり、対処方法も確立していた。
そのおかげで水竜人の攻撃をなんなく受け止めることができた。
さて、どうすれば水竜人にダメージを負わせられるだろうか。
さっきからAIが各属性の魔法を放ち続けている。
そのどれもが特にダメージを与えることができていないようだった。
圧縮した高威力の魔法で一瞬ダメージを与えるものの、すぐに再生されてしまう。
全開で魔法を放ち続ければ倒せそうだが、それでは効率が悪く面白くない。
多少時間をかけてでも効率の良さを求める。それがプログラマーなのだ。
・・・・・・時間効率は敢えて無視するのだ。楽しみのために。
こんなのはどうだろう。
アトスは思いついた魔法を実践する。
水竜人を結界に閉じ込め、その中に水を入れた小さな石の箱を無数に作り出す。
結界内を火魔法で急速に熱し、水蒸気爆発を連続で発生させる。
・・・・・・
・・・
激しい爆発が何度も発生したが、水竜人の再生速度を上回るほどのダメージでは無かった。
『大きな爆発を起こす方が有効と思われます』
大きな爆発、か。
大きめの石の箱を用意し、中に水を溜める。
超高温の炎を発生させるため、魔力を練り始める。
『念のため結界を強化、多重化します』
AIが危険を察知したようだ。
その直後、アトスは水の中に直接炎を発生させる。
閃光と共に激しい爆裂音が鳴り響く。
凄まじい威力の爆発によって、五重結界のうち四枚までが破壊されている。
AIの対応が無ければどうなっていたかと想像してゾッとするアトス。
水蒸気爆発の威力とその危険性を肌で感じたアトスは、今後の為にプログラム魔法【封殺超爆発】を開発しておいた。
結界の大きさと強度、石の箱と水の量、炎の温度は今回のままとし、結界の多重度を二層増やして安全性を増しておいた。
「さすがはアトスじゃの。儂では歯が立たんかったわい」
「それについて聞きたいことがあるんだが。戦う前に『今の儂には~』と言っていたが、ジョグはもう成体に進化しているだろう?」
「そうじゃな。だが儂はまだ成体に進化したばかり。聖獣としての第一歩のようなものじゃ。これから修練や経験を積むことで何十倍、いや、それ以上に成長するのじゃ」
ジョグの話し方はもう熟練の域に達しているように思えるのだが、話し方は関係がないようだ。
「聖獣としての第一歩、か。なるほどな」
「あ・・・・・・」
アトスはあることに思い至り、ショックを受けている。
「あんなに激しい爆発を起こしたからか、素材を破壊してしまったのかも。あれほどの魔物だから、素材もさぞ良いものだろうと期待してたんだが」
『収納空間を通じてマサムネ工房に転送済です』
「良かった。さすがAIだな」
さて、これで心残りは無くなった。
あとは新型魔法具だ。
アトスはマサムネ工房への転移門を開いた。
次話は明日アップ予定。
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