第26話 心残り
「アトス、見てくれ」
サダムネが新型魔法の手の試作品を持ってくる。
アトスはそれを装着し、動力源用の魔法石をはめ込む。
二度、三度と親指と人差し指の指先を合わせると、その都度デモ用の魔法が発動する。
「おぉ。思った通りに出来ているじゃないか」
「そうなんだが・・・・・・」
サダムネはどうも満足していないようだ。
「何か気になる所があるのか?」
「実はな、動力源の魔法石の魔力がすぐに枯渇してしまうんだ」
それもそうか、とアトスは思った。
これまでは魔法石起動用の魔法しか使っていなかったため、消費魔力は微々たるものだった。
ところが、新型は魔法石にセットした魔力で魔法を発動する。
単純に考えて、魔法石一つ分の魔法を使えば動力源の魔力を使い切ってしまうのだ。
実際には、その消費魔力を抑えることができるため、数回は発動できることになるのだが、3~4回の魔法で魔力が尽きてしまっては使い勝手が悪すぎる。
「解決案は2つ思いついてはいる」
サダムネが考えた解決案はこうだ。
一つは、動力源の魔法石を複数セットできるようにすること。
乾電池を複数並列につなげるようなものだ。
セットした魔法石の合計分の魔力が使えるため、魔法を発動できる回数が増える。
もう一つは、今のものよりも多くの魔力をセットできる魔法石を用意する。
この案も合計魔力量を増やすという点では一つ目の案と同じだ。
より大きな乾電池をセットするようなものだ。
「二つ目の案ならすぐにできそうだ」
今まで使っていたのは魔法石(小)だが、アトスは既に魔法石(中)と魔法石(大)を大量に集めている。
大きいものほど数は少なくなるが、それでも十分な数が集まっている。
それぞれ、純度を高めたものを鑑定してみる。
魔法石(中): ★★★
魔法数: 0 / 2
魔 力: 0 / 300
魔法石(大): ★★★
魔法数: 0 / 3
魔 力: 0 / 1000
セットできる魔法の数も増えているが、魔法具の動力源として使う場合は関係なかった。
「魔法石(中)なら今までの2.5倍、魔法石(大)なら今までの8倍強の魔力量だ」
「ふむ。大きさが異なるのか。どの魔法石でもセットできるよう調整してみる」
そう言ってサダムネは試作品の改良に取り掛かる。
アトスには新型魔法具の腹案がいくつかあった。
新型は用途に応じて作り分けることになる。
それならば、用途によって形状の異なるものとした方が面白いだろうと考えているのだ。
今考えている魔法具について、それぞれの機能と形状を描き出していく。
一つ目はベルトの様な形状の魔法具。
ベルト部分にボタンがあり、それを押すことで【持続強化×2(5分)】が発動する。
遊び心満載のこの魔法具の形状は、子どもの頃に憧れた変身ヒーローのそれだ。
二つ目は眼鏡の形をしている。
と言ってもレンズは不要で、フレームにあるボタンを押すと半径100mを探索する。
そして、探索結果を眼前に映し出すという代物だ。
近未来的なVRいや、AR眼鏡とでも言える一品となっている。
この魔法具は冒険者のみならず行商人や旅人にも重宝されるだろう。
唯一の懸念点は、探索結果を映像として映し出すことが可能かどうか未検証な点だ。
だがアトスは出来ないわけがないぐらいに考えているようだ。
三つ目は虫眼鏡の形をしている。
持ち手のボタンを押すことで、レンズ内の一番手前にある物を鑑定する。
細かいことを言うと、レンズと物の間に存在する気体などは鑑定対象外とする。
四つめは杖だ。
いかにも魔法使いが持っているような少し短めの杖。
杖の先には水晶のような物があり、それを三本の指で掴むようにして固定している。
持ち手の部分にボタンがあり、それを押すことで半径10mを探索する。
探知した全ての魔物に刻印し、それぞれの弱点属性の魔法を放つという恐ろしい性能だ。
これまでの魔法石と同じく、魔物にしか魔法を発動しないというセーフティがかけられている。
また、弱点属性が無い場合は魔物が耐性を持たない属性の中からランダムで属性が選ばれる。
五つ目も杖だ。
白魔導士と言えばコレ、という感じの少し大きめの杖だ。
杖の先の方には水晶のようなものが埋め込まれている。
用途はまだ検討中だが、2種類の魔法を使えるようにしたい。
回復魔法と、支援魔法を使い分けた方が便利だと考えているのだ。
そのため、この魔法具については魔法を2つセットできる魔法素材で作る必要がある。
「ざっとこんなところだな」
「どれも面白そうだな。まずどれから試作すればいい?」
「そうだな。誰でも使えそうなコレから頼む」
アトスは眼鏡型の魔法具を指差した。
「眼鏡か、分かった。その前に試作品の改良ができたから、一応見てくれ」
新型魔法具の試作品は、複数の魔法石を纏めて入れておけるようになっていた。
「これで魔力供給できるのか」
「あぁ、確認済だ」
これなら各種新型魔法具にも応用できそうだ。
この国を出る日も近いな、とアトスは思った。
その前に、心残りを解消しておかなければならない。
「ジョグ、一緒に来てくれ」
この国にはもう一つ迷宮がある。
王都から離れているため、異変が起こっていても気づいていないだけの可能性がある。
国を出るまでに、一度様子を見に行こうと考えていた。
ついでと言っては何だが、ジョグが戦っているところをまだ見たことが無かったので、戦闘能力を確認しておきたいという思惑もあった。
「ジョグ、お前は四凶の眷属に勝てそうか?」
「もちろんじゃ」
「オト、ショウは厳しそうだったが・・・・・・霊亀の方が強いということか?」
「そうではない。オトとショウはまだ若体じゃが、儂は成体。あの二人も成体になれば眷属ごときに遅れは取らぬよ」
確かに、幼体から若体へと進化したときもあの二人の戦闘能力はグンと上がった。
成長ではなく進化なのだ。それほどの違いが出ても不思議ではない。
──
迷宮に近づくにつれ、Sランクモンスターの数が増えてくる。
これだけのモンスターが王都に迫るような事態になれば、もしかしたらタンバサ国は滅亡の危機に瀕するかも知れない。
「さっきから魔物の気配がするかと思うとすぐに消滅しよるの」
「あぁ、俺のAI魔法が倒しているんだ」
「ほ・・・それはそれは。さすがは聖人様じゃて」
「聖人はやめろ」
「ほっほっ、すまんすまん」
「ここじゃな」
二人は迷宮にたどり着いた。
『人間の反応があります』
「魔物に襲われているのか?」
『いえ、近くに魔物は居ません』
「じゃあ放っておいて大丈夫だな」
魔物に襲われているならすぐ助けに行くが、そうでないならば放っておくしかない。
近づいて『こんにちは』と挨拶をしたところで警戒されるのがオチだ。
人間の反応を無視して、二人は迷宮に入る。
──
『あの二人、怪しいな。我々の邪魔をしている奴等かも知れん』
『あぁ。念のため幹部に報告しておこう』
黒い法衣を纏った二人組が、アトスとジョグの容姿を絵に描き留めていた。
──
A~Sランクモンスターの群れをものともせず、九階層までたどり着いた二人。
そこはかつてアメミットと戦った場所と酷似していた。
一つ違うのは、そこにはSランク、S2ランクの魔物の群れがいることだ。
アトスは初見の魔物の鑑定結果を簡単に確認する。
種 族: サイクロプス
ランク: S
種 族: ヒポグリフ
ランク: S
種 族: デュラハン
ランク: S2
種 族: トロル
ランク: S2
他にも、アメミットやマンティコア、バジリスク等々、これまで倒したことのあるSランク以上の魔物も居る。
「さすがにこの数は厳しいの」
ジョグが少し困った顔をする。
「そうでもない」
アトスがそう言い放った瞬間、その場から魔物が消え去った。
「とんでもないことを平然とやりおるの」
何が起こったのか分からないほど一瞬で魔物を殲滅するアトスの魔法。
初めてそれを目の当たりにしたジョグは、驚きと共にこれが主だということに喜んでいた。
それと同時に、自分も負けていられないと強く思う。
十階層に進むと、迷宮の中に居るはずなのに海岸に出た。
「海、なのか?」
アトスは水辺に近づく。
すると、突然水中から大きなタコのような魔物が数体現れた。
種 族: クラーケン
ランク: S3
「ジョグ、任せてもいいか?」
「うむ。任せておけ」
S3と言うと四凶の眷属やギガースと同等。
オト、ショウは持続強化×10を使っていたとは言え簡単に勝てた相手だ。
眷属には支援魔法がかけられていたため苦戦していたが、それが無ければ問題なかった。
そう考えると、さらに進化しているジョグなら楽勝だろう。
アトスがそんなことを考えている間に、ジョグはあっさりとクラーケンの群れを討伐していた。
「こんなもんじゃよ」
勝ち誇るジョグだが、再びクラーケンの群れが出現する。
「なんと、これはまた面倒じゃの」
倒しても倒しても出現するクラーケン。
以前にもこんなことがあった気がするとアトスは記憶を辿る。
あの時は確か、魔物の群れを召喚するボス級の魔物が存在していた。
「AI、奥の方に何か居ないか?」
『探索します・・・・・・探知しました』
種 族: 水竜
ランク: S5
「ジョグ、どうやら奥に親玉がいるようだ」
「ほほ、ではソイツを倒すとするかの」
「水竜、知っているか?」
「ドラゴンじゃと!? まさか・・・・・・今の儂ではちぃとしんどいかも知れんのう」
ドラゴンは成体となった聖獣でも厳しい相手なのか。
ランクはS5、これまでの魔物より2ランクも上だ。
Sランク以上ともなると、ランクが一つ上がるたびに強さがグンと上がっている気がする。
となると、S5ランクはどれほどの強さなのだろうか。
とりあえずジョグに持続強化×10をかけておく。
水竜が沖の方からゆっくりと近づいてくる。
大きな翼に刺々しい鱗、鋭い牙と爪を持つ巨大な竜。
対峙するだけで凄まじい威圧感を感じる。
水竜ははっきりと二人を睨みつけ咆哮する。
ギガースのそれの数倍の圧が発生する。それはもはや嵐であった。
「霊亀、行けるか」
アトスは何とか吹き飛ばされずに踏ん張る霊亀に声をかける。
「ま、やってみるわい」
こうして、聖獣霊亀vs水竜の戦いが始まった。
次話は明日アップ予定。
ブックマーク、いいね、評価、レビューいただけると幸いです。
よろしくお願いします。




