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第25話 王家

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 マサムネからの報告は、アトスを興奮させるのに十分すぎるものだった。

『始まりのブロック』の試作品が完成した。

 それは、アトスの思い描いている汎用魔法具開発キットとでも言うべき代物がようやくその第一歩を踏み出したと言える、素晴らしい成果だった。

 モックを使った試作品のテストの結果もバッチリで、開発キットの開発は次の段階へと進むこととなった。


 次は『もしブロック』と『反復ブロック』だな。

 またもやアトスがよく分からないことを言い出したのだが、マサムネとサダムネは食いつくように説明を聞いている。

 開発に途中から参加しているジョグも、魔法具の魅力に憑りつかれつつあった。

 他の二人とはまた違った視点からの意見を出してくれるため、ジョグの参加は非常にありがたかったようだ。


「サダムネには、別の魔法具作成をお願いしたいんだ」

 アトスはさらに別の開発を並行して進めようと考えているようだ。

魔法の手マジックハンドの改良のような感じだが、魔法を組み込めるようにならないかと思ってな」

「どういうことだ?」

「魔法の手は魔法石にセットした魔法を使うだろ? そうじゃなくて、魔法の手に魔法を仕込んでおいてそれを発動させるようにしたい」

「用途を限定する、ということか」

「そう言うことだ。そうすれば、魔力供給用の魔法石だけ用意しておけば良くなる」

 他にも、とアトスは説明を続ける。

 魔法石に魔法をセットする方式の場合、複数属性の魔法を仕込もうとするとその分の魔力を必要とする。

 魔法石にセットできる魔力量には限度があるため、複数属性の魔法を仕込むと威力が弱くなってしまうのだ。

 だが、発動させる魔法をセットしておき、後から魔力を供給する仕組みにすることでその問題を解決することができる。

 今の魔法の手でも、魔法石を発動させるための魔法をセットし、魔法石からの魔力供給で発動することができている。

 それを上手く応用できれば、この構想も実現できるはずだ。

「やってみよう」

 サダムネも作ってみたくてウズウズしているようだ。


 製作する部分はそれぞれマサムネとサダムネが担当している。

 アトスとジョグは、どちらにも参加して確認したり案を出したりしている。

 あーでもない、こーでもないと言い合いながら身体も頭もフル回転させている。

 その姿はまるで、無邪気な子どもが夢中になって工作をしているかのようだ。


「アトス、騎士団の人が話があるらしいよ」

 オトからの連絡で、アトスの『夢中』は一旦終わりを告げる。


 ──


「アトス殿、来てくれたか」

 クリフが駆け寄ってくる。

 アトスに用があるのは彼のようだ。

「何の用だ?」

 オトを介してわざわざ呼び出してきたことを考えると、簡単な用ではないはずだ。

「実はな、国王陛下がアトス殿に会いたいそうだ」

「国王が・・・・・・本当か?」

「あぁ。アトス殿の功績は王家にも伝わっている。それで、実際に会ってみたいと思われたのだ」

「いや、無理だ。俺はその上下関係とか礼儀というものが一切できない。国王ともなると、さすがに本人も周りも許さないだろ?」

「それについてサラ様からお声があって、非公式にという話になっている」

「国王がそれを認めたのか」

「そう言うことだ。我が国の国王陛下は聡明かつ勇敢であられると同時に、とても温和な方でもあられるのだ」

「分かった。で、いつだ?」

「今すぐ、行けるか?」

「今? えらく急な話だな。まぁ大丈夫だが」

「では案内する」


 クリフに連れられ、アトスは宮殿に向かう。

 宮殿とは言うものの、どうもこの国の王家は国民を大事にするらしく、とても贅を尽くしたとは言えないものであった。

 とは言え、さすがに王家になにかあっては国家が転覆しかねない。

 その為、王家専属の騎士団があるようだ。

 守衛だけでなく、入口付近には待機している兵も多い。

 だらだらしている者は皆無で、王家を守るという強い意志を感じる。

 兵にも好かれているんだろうなとアトスは思った。


「ここだ」

 謁見の間に通してしまうと公式の場となってしまうため、アトスは裏側にある部屋の前まで連れていかれた。

 さすがに他の者を通すわけにも行かないのだろう。

 案内役のクリフは部屋の前で引き返していった。


 ドアを開けると、ソファーに腰かけていた二人──恐らく国王と王妃と思われる──とその向かいに居た女性が立ち上がる。

「アトス殿、ようこそお越しくださいました」

 おじぎをしながら、サラが挨拶をする。

 それに国王が続く。

「シャルロです。よろしく」

 そう言って握手を求める。

 王とは思えぬ柔らかく軽い口調に少し困惑した表情を浮かべるアトス。

 それを察した国王シャルロが声をかける。

「アトスとは対等に話をしていいと聞いている。私もそうさせてもらうよ」

「あぁ、そうしてもらえると助かる」

 返事をしながら、アトスは握手に応じる。

 これが国王の手なのだろうか。

 40前後に見えるシャルロの手は、現役の騎士のような手をしている。

 アトスはそのように感じた。


「では私もそのように話すわね。私はアイリン。アトス、よろしくね」

 サラを始めてみたときにも思ったことだが、王家の女性とはかくも美しいものなのか。

 燃え盛る炎のように赤い髪、全てを見透かしているような美しく大きな瞳。

 絹のような透き通る肌。

 ほんの一瞬だが、アトスはアイリンに見惚れてしまう。


「アトス殿、お母様に見惚れてらっしゃるの?」

 少しからかうように言ったサラの言葉には嫉妬が混じっている。

「あ、あぁ。初めてサラを見たときと同じで、つい。失礼した」

 アトスは何の思惑もなく素直に言う。

 それが王家の面々には好印象のようだ。

「サラ、良かったわね」

「お、お母様・・・・・・はい」

 そんな母娘のやり取りを微笑みながら眺めているシャルロ。


「ところで、何か用か?」

 空気を読まずにアトスが言う。

「君の噂を色々と聞いてね。本当なら褒章の授与でもしたかったんだが、公式の場に君を呼び出すのもどうかと思ってね」

「あぁ、公式の場は遠慮しておく」

「サラがね、どうしても貴方に会いたかったそうよ」

「お母様!」

「今回の事もね、非公式に会うのはダメか? としつこくって」

「サラのおかげで非公式の場で会うことになったと聞いている。サラ、ありがとう」

「い、いえ、私はそんな・・・・・・」

 サラは顔を紅潮させてうつむく。


「ま、そんな経緯があってね。私も一度君に会いたいと思っていたんだ。聞けば、Sランクの魔物をその場に居なくして倒したりできるそうじゃないか」

「お父様、私は二度アトス殿に助けてもらったのよ♪」

 なぜかサラが上機嫌に言う。

「あぁ。あれは・・・・・・」

 アトスは喜々としてプログラム魔法の説明そ始める。

 AIのこと、探索魔法のこと、それから収納空間や遠隔魔法について。

 初めはよく分からないまま聞いていた三人だったが、少しずつ理解し始めている。

 さらに、理解が進めば進むほどアトスの話しに興味が湧いてくるようで、食いつくように話を聞いている。

 アトスは三人の様子を見てさらに嬉しくなり、何度質問されても喜んで何度も説明する。

 さらに、魔法具の話まで加わって、その場にいた全員が童心に返って楽しく会話している。

 まるで王家の者とは思えないその様子を、もし家臣が見ていたらさぞ驚いたであろう。


「ところでアトス」

 楽しい会話が落ち着いたタイミングでシャルロが話を変える。

「我が国に仕える気はないか」

 国王として当然の考えだろう。

 これほど優秀な人材が目の前にいるのだから、登用して当然だ。

「お前達のことは嫌いじゃないが、国に仕える気はない」

「そうか、残念だ」

 王家の者に対して『お前』呼ばわりした時点で、家臣が居たらどうなっていたか分からない。

 だが、シャルロもアイリンもサラも全く意に介さない。

「では、私たちの家族になるというのはどうかしら」

「どういうことだ?」

「私達の娘と結婚する気はないかしら」

「お、お母様!?」

「あら、サラだけじゃなくてよ。今日は不在だけど、もう一人シエラという娘がいるの。もし良かったらまた機会を作るから会ってみてもらえないかしら」

 どうやらこの国には王女が二人いるらしい。

 そのどちらかの婿にどうか? と問われるアトス。


「実は、もうすぐこの国を出ていくつもりだ」

「えっ・・・・・・」

 動揺を隠せないサラを無視して、アイリンは続ける。

「あら、残念ね。この国はお気に召さない?」

「とてもいい国だと感じている。だが、俺はまだ世界のことを何も知らない。だからまず色んな国を回ろうと思う」

「そう。それも良いわね。また戻ってくる気はあるかしら」

「そうだな。だが、さっきも言ったが俺はどこかの国に仕える気はない。縛られるのは苦手でな」

「そうね。あなたには自由が似合う気がするわ」

 まだ何か言いたげだが、アイリンはここで話を切る。


「君にはサラを助けてもらった上に、騎士団を大きく強化してもらった。感謝しきれない」

「大したことはしていない。俺の都合も色々と聞いてもらっている。お互い様だ」

「ふふっ。そう言うことにしておく」


「これからのことで相談があるんだ」

 アトスは今後、世界を回りながら魔法具を広めたいと考えている。

 その対象にはこの国も当然入っている。

 そもそも故郷に似た雰囲気のこの国をアトスは気に入っていた。

 なので、この国をないがしろにすることはない。


 三人に開発中の新型魔法具や魔法具開発キットの件について話し、完成した暁にはこの国でも販売したい旨を伝える。

 それから、またいつでもここに来る許可をもらう。

「次にお会いできるのはいつになるのでしょうね」

 ポロっと零したサラ。

「いつでもすぐ来れる」

 そう言って転移門を見せるアトス。

 シャルロとアイリンは驚きのあまり言葉が出ない。

「これならいつでも会えますね。アトス殿、いつでもお待ちしております」

 サラは驚きよりも喜びが勝っているようだ。

「あらあら、アトス。あんまり待たせちゃダメよ」

「気が向いたらまたお邪魔するよ」

 アトスもまんざらではないようだ。


「じゃ、これで」

 そう言ってアトスは転移門を開く。

 一旦マサムネの工房に戻り、新型魔法具の開発に参加する。


 アトスは新型魔法の手マジックハンドが完成次第、この国を出ると心に決めていた。


次話は明日アップ予定。


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