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第22話 稀代の名工


 周囲の魔物を一掃しながら、アトスは猛スピードで走っている。

 しばらくすると、探索魔法が人を探知したのでその場所へ向かう。


「お前、何者だ?」

 目の前に現れた男がアトスを見て言った。

 長身で、細身だがガッチリとした身体。

 その手には、なまめかしさを漂わせる美しさとまとわりつくような恐ろしさを兼ね備えた不思議な刀を携えている。


「俺はアトス。魔法使いだ。鍛冶師を探している」

「魔法使いが鍛冶師に何の用がある」

「魔法具を作りたいんだ」

「魔法具? なんだそれは。それに、俺は忙しいんだ。すまんが他を当たってくれ」

「あんた、サダムネの師匠ではないか?」

「・・・・・・サダムネを知っているのか。確かにあいつは俺の弟子」

「と言うことは、アンタがマサムネ、だな」

「そうだ。俺がマサムネだ」

「良かった。アンタに頼みがあるんだ」

「サダムネを頼ればいい。さっきも言ったが、俺は忙しいんだ」

「サダムネにもお願いして幾つか作ってもらっている。だが、俺が今作りたいものはサダムネ一人では難しいと言われてアンタを探していたんだ」

「サダムネに作れないものだと? そんなもの、俺にも作れるか分からんぞ」


 そう言えば、とアトスは思った。

「まず、サダムネに作ってもらった魔法具を見てくれないか」

 アトスは魔法の手マジックハンドに魔法石をセットする。

「これを手に付けてみてくれ」

 一通り使い方を教える。


「な、なんだこれは」

「魔法の手って言ってな。誰でも、魔法を使えないものでも魔法を使うことができるんだ」

「そんなことが可能なのか」

「今のところは、この魔法石にセットした魔法に限られるんだがな」

「この石か。確かに魔法の力を感じる」

 マサムネは魔法石の力を感じることができるようだ。


「魔法具、確かに面白そうだ」

「だろ? じゃあ・・・・・・」

「だが、今は無理だ」

「なにか急ぎの用事があるのか?」

「あぁ。実は・・・・・・」

 マサムネが忙しい理由は、迷宮の異変が原因らしい。

 魔物が活発化、かつ高ランクの魔物が大量に発生しており、王都から武器の製作依頼が届いているらしい。

 いつもなら断るのだが、状況が状況だけに断ることも出来ず、と言うことらしい。

 マサムネの作る武器は圧倒的に質が良く、それを身に付けるだけで騎士団のレベルがグッと上がる。

 それだけで、王都の防衛力がグンと高くなるのだ。


 それなら、とアトスは考える。

 そして、サダムネの所に転移門を繋げる。

 当然マサムネは驚いているのだが、アトスはそれをスルーしてサダムネの工房へ移動する。

 アトスの考えはこうだ。

 サダムネにマサムネの仕事を手伝ってもらい、さっさと片づけてもらう。

 さらに、二人で協力して魔法具を作ってもらう。

 余りに自分勝手なようにも思えるが、国防の観点から見ても共同作業で早く武器を用意できた方が良いし、鍛冶師二人も魔法具政策に興味を持っているため、Win-Winの提案でもあった。


「それなら」

 サダムネには別案を出す。

「この魔法具──魔法の手──を王国騎士団に売り込むのはどうか」

「なるほど。確かに騎士団の戦闘力はグンと上がるな」

 マサムネにも相談してみようと、早速アトスとサダムネはマサムネの工房へ移動する。


「師匠! お久しぶりです。お元気そうでなによりです」

「あぁ。主も元気そうでだな」

「はい!」

 サダムネがどこか少年のように思えてくる。

 マサムネに師事していた頃の自分に戻っているかも知れない。

 よほどマサムネを尊敬しているのだろう。


 挨拶を済ませ、早速マサムネに相談する。

「ふむ、確かにこれを売り込むのは良さそうだ」

「そうか。じゃあ早速ホターラカに行こう」

「今出来上がっている物も届けたい。荷馬車が必要だな・・・・・・」

「沢山あるのか? じゃあ収納空間に入れて行けばいい」

「・・・・・・なんだそれは」

「あぁ、こうして入れておけば、向こうで取り出せるんだ」

「・・・・・・」

 転移門といい、収納空間といい、これまで見たことも聞いたことも無かったものを、事も無げにやってのけるアトスに驚愕するあまり、マサムネは絶句する。

 誰もが似たような反応をするため、最早アトスは特に何とも思わない。


「じゃ、行こう」

 アトスは王都ホカーラタの広場前に転移門を繋げる。


 ──


 マサムネは真っすぐ騎士団の詰所に向かう。


「マサムネ殿!」

 腰辺りまで垂れた美しい金髪、碧く美しい瞳の美女が声をかけてきた。

「ジャンヌ、元気そうで何よりだ」

 ジャンヌと呼ばれた女性はアトスとサダムネに目をやる。

「こちらは?」

「あぁ。こちらはサダムネ。俺の弟子だ。

 そしてこちらがアトス殿」

「サダムネ殿、アトス殿、お初にお目にかかります。王国第1騎士団長ジャンヌと申します。以後、お見知りおきを」

「ジャンヌ殿、よろしくお願いする」

「ジャンヌ、よろしく頼む。それから、俺に殿はつけなくていい」

 初対面にも関わらず呼び捨てにしてくるアトスに対し、ジャンヌは無礼な奴と憤りを感じる。

 だが、敬愛するマサムネの紹介とあっては無碍にはできない。


「本日はどのような要件で参られたのでしょう」

 ジャンヌが尋ねる。

 本当なら要件などなくとも良かったのだが、立場上尋ねる他なかった。

「依頼された品の件で、ちょっとな」

「納品予定はまだ先のはずでは?」

「あぁ、それなんだが」

 マサムネは、現時点で完成している物を納品し、残りの部分について再協議したいと告げる。

「我々の依頼に不服がおありでしょうか」

 ジャンヌは不安な面持ちで問う。


 サダムネはこのアトスという者が開発した魔法具を見て欲しい。

 そして、武器の代わりにそれを量産するのはどうか? という提案をする。

「魔法具とは?」

「見せた方が早いだろう」

 そう言ってアトスは魔法の手を装着し、デモ用の魔法石をセットする。

「こうやるんだ」


 魔法の手から火球と水弾が飛ぶ。


「なっ、貴様!?」

 ジャンヌが警戒態勢を取る。

 さらに破裂音に驚いた騎士団員が数名、詰所から飛び出してきた。

「ちょっと待ってくれ」

「貴様、マサムネ殿をたぶらかし、王国騎士団を急襲するつもりか!?」

「いやいや、そんなつもりはない」

 ジャンヌは聞く耳を持たない。


 アトスを睨みつけながら、剣を抜く。

 70cmはあろうかという長尺の剣は、艶めかしさと恐ろしさを兼ね備えたマサムネの刀に似たオーラを感じさせる。

「アトス、下がった方がいい」

 サダムネが言う。しかし、アトスは下がらない。

「大丈夫だ」

 おいおい、魔法使いがあの剣を相手にするのは分が悪すぎるぞ・・・・・・と心配するマサムネだが、同時にアトスから感じた尋常ならざる雰囲気にある種の期待も寄せている。


 瞬きよりも速く、ジャンヌは距離を詰め剣を振り下ろす。

 アトスは結界を楯のようにして剣を防ぐ。

 だが、防いだかに見えたジャンヌの剣が結界を押し砕く。

 軽やかなバックステップで剣を躱す。

「あれで防げないとはな。剣が凄いのか、腕がすごいのか」

「両方、だな」

 サダムネは続ける。

「師匠の剣は普通じゃない。切れ味も恐ろしいが、剣を振ったその衝撃は空をも切り裂く。そして、その女は剣を使いこなしている。恐るべし技量の持ち主だ」

「アレは俺の打った中でも屈指の名剣『城和泉守正宗じょういずみのかみまさむね』だ。油断しない方がいい」


 あの剣は厄介だ。

 倒せばいいというなら簡単だが、彼女を傷つけるわけにも行かない。

 さて、どうしたものかとアトスは思案する。


『強化した結界で多重防御すれば対処可能と思われます』

 AIの提案で、とりあえず防御面は問題なさそうだ。


「なっ、私の剣を防ぐだと!? ありえん!」

 ジャンヌは少し冷静さを欠いているように見える。

 このまま続けていても埒があかないな、とアトスは思い始めた。


「ジャンヌ殿!」

 詰所にやって来たクリフが声をかける。

 ジャンヌもさすがに第3騎士団長の意見に耳を貸さない訳にも行かない。

 クリフは、自身のみならず王女様サラの命を救ったのがアトスだと説明する。

「サラ様を!?」

「そうだ。その剣を納めた方が良い」

「たっ、大変失礼いたしましたっ! いかような罰も甘んじてお受けします!」

 ジャンヌは平謝りする。

 だが、当のアトスは何とも思っていない。

「いや、別に何ともないから気にするな」

「そう言う訳には行きません」

 と肩を落とすジャンヌ。

「クリフ。彼女に罰を与えないようにしてくれ。必ずだ」

「アトス殿に言われては、そうするしかないな」


「そんなことより」

 アトス達は王国からマサムネに依頼のあった件について相談に来たのだ。

 詰所に入り、冷静さを取り戻したジャンヌにクリフを加えてアトス達は話しを進める。


「その剣だが、第3騎士団内でも話が出ている」

 クリフが言うには、アトスからもらった魔法石を使って、魔法部隊を、それも攻撃と支援の2部隊を組み込もうという案が出たそうだ。

 それに反対するものもなく、むしろ騎士団の戦闘能力が大きく向上する見込みの為、今すぐにでも取り入れて訓練するべきだという意見に満場一致となったと言う。

 それを聞いたジャンヌだが、それでもまだ魔法具と魔法石の効能を実感していないこともあって、賛成しかねている様子。


「確かに魅力的な話に聞こえる。だが、マサムネ殿の武器が騎士団全体に行き届くこととどちらが上かと言えば・・・・・・」

「魔法具の方が上だろうな」

 マサムネが、自身の打った剣を全員が持つよりも魔法具を増やした方が良い、と言ったのだ。

「なっ!? マサムネ殿は稀代の名工、その一振りは岩を穿ち、空を裂く。その剣よりも、ですか?」

 信じられない、と言った様子でジャンヌが問う。

「あぁ、間違いない。アトスはその剣をいとも簡単に防いでいただろう?」

 確かにそうだったと思いつつ、それは自身の剣の腕が足りていなかったせいだとジャンヌは考えている。

「それに俺の剣は量産には向かない。もちろんその辺の店で売っている剣よりは遥かに良い剣ばかりだが。

 そもそもそれを使いこなせる騎士はそういないだろう?

 それなら、誰でも簡単に強力な魔法を使えるようになる魔法具の方が遥かに良い」


「サダムネ、魔法の手はどのぐらい作れた?」

「二種類どちらも100ずつは出来ている」

 それだけあれば、第1~第4騎士団まで50ずつの魔法具を配備できる。

 十分すぎる強化になるとクリフは確信する。

「その魔法具全てを我々に譲るのは可能か?」

「マサムネへの依頼の代わりに、と言うことなら問題ない」

 あぁ、そうだとアトスはマサムネから預かっていた剣を取り出す。

 全部で40本あった。

 第1~第4騎士団には各10本ずつ配布できる。

「これだけあれば十分です」

 ジャンヌは1本1本の剣をじっくり見ながらうっとりとしている。


「そんなに素晴らしい剣なのか」

 アトスには分からない。

 確かにマサムネやジャンヌが持っていた剣は特別な剣であった。

 それはアトスにも感じることができた。

 だが、今渡した40本はその2本と比べるまでもなく、ただの剣にしか思えなかった。

「確かにこの40本は普通の名剣程度のものだ」

「何を仰いますか! これらはどこの店にも並ばぬ素晴らしい剣ばかりです!」

 当のマサムネ自身が言ったのだが、ジャンヌはそれを否定する。


「マサムネ殿は稀代の、いえ、史上最高の刀匠なのです」

 恍惚とした表情を浮かべるジャンヌに、一同は柄も言わぬ恐怖を覚えるのだった。


次話は明日アップ予定。


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