第21話 窮奇(きゅうき)
ハリネズミのような堅く刺々しい体毛を持ち、虎の顔に二本角。
禍々しいオーラを纏い、二本の足で直立する牛のような魔物。
それが窮奇だ。
ランクはS3、ギガースと同程度か。
ギガースは進化したオトとショウのコンビで瞬殺していたので、楽勝か? とアトスは考えた。
だが、戦いには相性というものがある。
相性が良ければ格上の相手にも簡単に勝てることもある。
その点では、窮奇はオトにとって最悪の相手であった。
基本的な戦闘力に有意な差はない。
単純な肉弾戦では互角の戦いをしている。
だが、窮奇にはオトの得意とする炎が通用しなかった。
しかも、あれほどの禍々しさでありながら、聖なる炎が通じないのだ。
「このままではマズいな」
アトスが零す。
「窮奇は四凶という魔獣の一角をなす恐ろしい魔物だ。アレは眷属と言えど、窮奇の力をその身に宿している。簡単な相手ではない」
麒麟は続ける。
「奴等は我々霊獣の天敵のようなものだ」
苦虫を噛み潰したように言う。
どうやらショウが生まれ変わった理由とも関係がありそうだ。
「それだけではない。四凶は世界に仇なす存在なのだ。
いつ現れ、いつ行動をするのかは分かっていない。
それに、奴等はあらゆる生命体を補食する。
奴等をのさばらせておくと世界が滅びに向かうことになる」
さて、どうしたものかとアトスは考える。
そんなにヤバい奴なら、目の前にいるアレは必ず倒しておかねばならない。
だが、オトは一人で戦いたがっている。
奴等が鳳凰や麒麟の天敵であるなら、普通に戦って勝てる相手ではないのではないか。
それに、目の前の戦いを見る限り、このままでは勝てそうにない。
アトスが戦えば恐らくそれほど苦労せずに倒せるのだが、そうする訳にも行かない。
・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・
ダメだ、何もいい案が浮かばない。
そうこうしている内にもオトはどんどん消耗していくのが見て取れる。
一方、窮奇は消耗している気配がない。
なぜだ?
オトの炎が効かないとは言え、肉弾戦は互角に見える。
窮奇が放つ漆黒のビームもオトは難なく避けている。
それにオトには持続強化がかかっており、持続的に回復しているはず。
それなのに両者の消耗具合には大きな差がついている。
何か理由があるはずだ。
そうアトスは考えた。
『窮奇に支援魔法がかけられています。近くに支援者が居る可能性が高いため、球形探索を行います』
AIが気づく。
そして、探索魔法が何者かを探知した。
種 族: 人
ランク: A
スキル: 支援魔法、反聖魔法
『窮奇の後方、上空30m付近に人が存在しています』
闇に紛れて視認できないが、窮奇を支援している何者かが居る。
人類にとっても危険な生物であるはずの窮奇を、なぜ支援するのか。
その人物を捉えて直接聞き出すしかない。
「結界で捉えて魔法を封じられるか?」
『可能です。・・・・・・成功しました』
「オト、そいつには聖なる力を防ぐ魔法がかけられていた。だがその効果はもう切れた。思いっ切りやってみろ」
窮奇が消耗し始め、徐々にオトが優勢となる。
一瞬の隙をついて聖炎光束を放つオト。
窮奇の片足を貫く。
すぐに自動再生が始まるが、それより速く、オトが連続攻撃をしかける。
もはや、オトの圧勝だった。
動きを止めた窮奇に対し、容赦なく攻撃を続け、聖炎砲で止めを刺した。
「さて」
アトス達は先ほど拘束した人間の元へ向かう。
結界に捉われた男は、黒い法衣を纏っていた。
「お前達、何者だ。それに、鳳凰だと? 鳳凰は片づけたと報告があったのに、何故だ!!」
その男は、鳳凰が居ることに驚いているようだ。
その一方でアトスもその男の身なりに心当たりがあるようだ。
「その黒い法衣には見覚えがある。お前こそ何者だ」
アトスが問う。
「我々はアヌグラ・マニュー団。世界を救う者よ!」
「世界を滅ぼす、の間違いであろう」
少し怒りを滲ませながらショウが言った。
「なぜあの危険な生物を支援していたんだ?」
アトスが尋ねる。
「ふふ、そもそもアレは我々が苦労して召喚した魔物よ。この世界を救済するためにな」
その答えを聞いたショウは、再び怒りを込めて言う。
「今一度言う。世界を滅ぼすの間違いであろう!」
「ふふ、ふははは、お前達には分からんのよ! アヌグラ・マニュー団に光あれ!!」
アヌグラ・マニュー団の一員と思われるその男は自害した。
──
「オト、大丈夫か」
「ごめんね。復讐のつもりは無かったんだけど、目の前にいるアイツを見たら感情が抑えられなかった」
「それは構わないさ。オトが無事ならそれでいい」
「アトス、ありがと」
それから、鳳凰と窮奇について、オトが話してくれた。
と言っても詳しくは覚えておらず、分かる部分についての話がほとんどだったが。
オトによると、さっきの眷属は強かったとはいえ本物の窮奇には遠く及ばないらしい。
本物は成体となった鳳凰ですら勝てなかったらしく、今のオトでは戦いにすらならないそうだ。
「でも、アトスが居てくれたら勝てる」
「そうか?」
「うん。その前に、ボクが成体に進化しなきゃダメだけどね」
「その為にも、魔物を狩り続ける必要があるな」
そう言うショウ自身も、修行が必要だと考えているようだった。
「アトス。俺たちはまた修行を続けたい」
「あぁ、分かった。だが、無茶はするな。何かあったらすぐに連絡してくれ」
「「分かった」」
そう言って、また三者三様に行動を始める。
──
アトスはサダムネの師匠を探そうとしていた。
だが、手掛かりが『王都から少し離れたところ』に住んでいる、ということだけだ。
サダムネの師匠ということは、住む場所の選び方も似ているかも知れないと思いつく。
「サダムネ、一つ教えて欲しいことがある」
そう言って、この場所を選んだ理由を尋ねるアトス。
サダムネによると、鍛冶には水が必要らしく、近くに水があることが重要らしい。
それと、魔物の素材が必要となるため迷宮の近くがいい、とのことだ。
「助かった。ありがとう」
「あぁ。俺も久しぶりに師匠に会いたい。もし会えたら、よろしく頼む」
「任せろ」
アトスは地図を広げる。
王都から少し離れた、水と迷宮が近くにあるところ。
地図を見るに、タンバサという国は島国だ。
北側には海が広がっており、王都から少し離れた水のあるところと言うのは王都の北側全域に当たる。
王都の北側を見ると、海岸から比較的近くにある迷宮を見つけた。
「よし、この辺りを探してみよう」
一旦王都に戻り、真っすぐ北上する。
探索魔法が海まで届く距離まで移動し、真っすぐに東へと向かう。
アトスは魔力消費を気にせず、半径20kmの範囲を10秒毎に探索していた。
これだけでもアトスの魔力量が途轍もないことが分かる。
そもそも常人には半径20kmどころか1kmの探索も厳しいのだ。
さらにアトスは持続強化×10をかけて猛スピードで移動している。
その魔力量はもはや、人間のそれでは無かった。
次話は明日アップ予定。
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