第19話 王女
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王都ホカーラタまで、フォーレの街から馬車で五日ほどかかるという。
ショウに乗せてもらえば速いのだが、今は麒麟の姿になるのを控えている。
そのためアトス達は【持続強化×10】をかけて走り続けている。
他の冒険者の獲物を取ってしまわぬよう、AIに指示を追加している。
アトスの常時探索魔法は、今はAI主導で発動しているのだ。
『右前方300m、人と魔物を探知しました。恐らく人が襲われています』
AIから報告が入る。
「確認しに行こう」
──
「・・・様を守れ!」
「副長、私がヤツに仕掛ける。支援しろ!」
「ハッ!」
小隊規模の騎士団が魔物と戦っているらしい。
戦況は思わしくないようだ。
「オト、ショウ、魔物を任せる」
「「OK」」
到着するなり、アトスはその場にいる全員に回復魔法をかける。
「ご助力、痛み入る」
「気にするな」
「私はクリフ。王国第3騎士団長だ」
「俺はアトス。魔法使いってとこだ」
「君が・・・・・・。心強いな」
「どこかで会ったことがあったか?」
「いや、フォーレからの報告で君の名を聞いたんだ。凄い魔法使いが居る、とね」
「はは・・・・・・、それほどでもないが」
騎士団長クリフは緊張した面持ちであったが、アトスの名を聞いて緊張が解けたように見える。
「バジリスクか」
鑑定結果を受けて、アトスが呟く。
「あぁ、そうだ。と言っても、我々も聞いたことがあるだけで、対峙するのは初めてだが」
「Sランク・・・・・・この辺りにはよく出てくるのか?」
「道理で・・・・・・この辺りは稀にAランクが出る程度で、後はB~Cランクしか見かけたことはない」
「そうなのか。じゃあ、迷宮の異変の影響か?」
「恐らく。ここから東にしばらく行くと迷宮がある。そこに異変が起きているのだろう」
どうやら迷宮の近くまで来ていたようだ。
「ところで、あの二人は何者だ? バジリスクと互角に戦っているようだが」
「あぁ、俺の仲間だ。小さい方が魔法使い、もう片方が・・・・・・魔闘士、だったか」
「魔闘士、珍しいな」
「それに、二人は全く本気を出していないようだ。久々の強い魔物だから遊んでいるんだろう」
「なっ、なにっ!? 遊んでいる?」
「あぁ。ま、しばらく遊ばせてやってくれ」
「・・・・・・」
クリフも、騎士団員も開いた口が塞がらないようだ。
「俺はその、近くの迷宮を見に行こうと思うんだが、お前達はこの後どうするんだ?」
「我々は王都へ戻る途中なんだ」
「そうか。この先、大丈夫なのか?」
「大丈夫だとは思うが、アレと同等の魔物が出てくると正直、厳しいかも知れんな」
「王都まではあとどのぐらいだ?」
「そうだな。大体2時間程度だと思う」
「距離は?」
「20kmと言ったところだ」
ふむ・・・・・・。
20kmか。
AIの探索をそこまで広げた場合、魔力消費はどのぐらいだろうか。
『5分に1回の探索であれば、自然回復とほぼ同じなので問題ありません』
5分か。
「クリフ」
アトスはクリフに確認する。
もし魔物と出会ってしまった場合、何分なら持ち堪えることができるか。
「上手く行って5分、というところだな。実際、今もかなり限界が近かった」
「そうか。なら」
そう言って、アトスは【持続強化×10】、【範囲回復×10】をそれぞれ10個と各属性の【範囲攻撃】を20個手渡す。
「これは?」
「あぁ、これは魔法石と言ってな。ま、実際にやってみた方が早い」
お試し用の魔法石を渡す。
「おぉっ、魔法が仕込まれているのか!」
理解が早くて助かる。
「そういう事だ」
アトスは手渡した魔法石の効果を伝える。
「もし魔物と出会ったら、これを使って何とか持ち堪えてくれ。かならず5分以内に倒す」
「倒す?」
「出会ったばかりだが、俺を信じてくれ」
「分かった。信じる」
「あの・・・・・・」
侍女に連れ添われた、高貴な女性が立っている。
まばゆい程にツヤのある赤髪を風になびかせた、おしとやかな女性。
透き通るように美しい肌。
「助けていただき、ありがとうございました」
そう言って頭を下げる。
恐らく高貴な、位の高い貴族であろう女性がアトスに頭を下げる。
「あぁ、気にするな。大したことじゃない」
「貴様! 無礼だぞ!!」
騎士団の男が怒気を孕んだ声を上げる。
「よいのです。このお方は私達の命の恩人」
「ハッ」
男は引き下がる。
「いや、恩を着せるつもりはない。気にしないでくれ」
「そういうわけには参りませんわ」
「それと、俺は上下関係が嫌いなんだ。対等に話せるものとしか話さない」
「分かりました。ところで、遅れましたが私、サラと申します」
「サラ。俺はアトス。魔法使いだ」
「貴方がアトス様でしたか」
「様は止めてくれ」
「では失礼して、アトス。お噂はかねがねお伺いしております」
「噂?」
「フォーレの街を救った英雄の如き魔法使いだと」
「え、英雄? 大げさだな。俺はただ魔物を倒しただけだ」
「ふふっ。面白いお方ですね」
「アトスー、終わったよー」
「久々に多少楽しめる相手だったが、本気を出すまでもなかった」
「だろうな。二人ともお疲れさん」
「アトス、この方たちは?」
「俺の仲間だ。こっちがオト。で、こっちがショウ」
「オト様、ショウ様、助けていただき、ありがとうございました」
サラは二人にも礼を言いながら頭を下げる。
「オトで良いよー。それに、ボクは楽しんでただけだよー」
「俺もショウで良い。同じく楽しんだだけだ。礼は不要」
「あらあら、皆さん面白い方ばかりね」
サラは愛くるしく笑う。
「俺達は迷宮に立ち寄ってから王都に向かう」
「お気をつけて」
「クリフ、任せたぞ」
「あぁ。恩に着る」
「恩は感じなくていい。王都に行ったら顔を出すよ」
「分かった」
「面白い方たちだったわ」
サラは楽しそうに言う。
「ですが、姫様にあのような口の利き方を・・・・・・」
「良いのよ。私は気にしないわ」
「・・・・・・分かりました」
「ふふっ。アトス、また会いたいわ」
「っ!!」
──
アトス一行は迷宮にたどり着く。
「俺はしばらくここにいる。二人で迷宮を調べて来てくれないか」
「やったー。アトスが来ちゃうと、すぐ魔物倒しちゃうからね」
アトスは苦笑する。
「何か気になることでもあるのか?」
「あぁ、さっきの一団がな。また襲われても困るから、ここから探索しておこうと思ってな」
「・・・・・・とんでもない範囲だぞ?」
「あぁ。5分おきに探索するから問題ない」
それでも十分凄いのだが、とショウは思った。
「じゃ、任せたぞ。何かあったら「連絡するー」」
被せ気味に言って、さっさと迷宮に入っていく。
探索はAIに任せて、アトスは次の魔法具について思案する。
武器や防具に魔法を組み込めたら。
もっと自由度の高いものにできないか。
ぼんやりとだが、アトスの頭の中に思い描かれたものが幾つかあった。
あとは、それを実現できる鍛冶師に出会うことができれば。
『騎士団が無事王都に着いたようです』
AIが報せる。
「じゃ、俺も入るとするか」
アトスが迷宮に立ち入ろうとしたその時。
「アトス、来れるー?」
「すぐ行く」
いつも暢気なオトだが、少しだけ緊迫感のようなものを感じた。
すぐに転移門を開く。
二人は珍しく傷を負っている。
「お前達がここまで苦戦するとは、珍しいな」
「奴らの連携がかなり厄介だ」
ショウの目線の先に目をやる。
アレは鬼、か?
そこには鬼のような魔物が五体いる。
アトスはとりあえず鑑定する。
種 族: 鬼
ランク: S2
生命力: 43,892 / 60,000
スキル: 再生、咆哮、思念連携
S2って、Sより上ってことか。
それより、思念連携?
『種族間で思念伝達を行っていると推測します』
なるほど。ということは、連携にタイムラグが無いって感じか。
「それとねー、攻撃してもすぐ回復していくのー。ちょっと面倒」
「なるほど。それは厄介だな。手伝おうか?」
「回復だけ頼む」
あくまで二人で戦いたいようだ。
アトスは回復をかけて見守る。
二人には持続強化×10がかかっている。
それでここまで苦戦しているということは、かなりの強敵だ。
身体の大きさと強さには関係がないという、良い例だ。
「あの連携は確かに厄介だな」
二人の戦いを見ていたアトスが零す。
攻撃を仕掛けると別の鬼が側面、背面から攻撃をしてくる。
攻撃を防いだときも同じく、別の鬼が間髪入れずに攻撃する。
単体ではオト、ショウの方が強いが、数と連携で上回る鬼達の方がやや優勢だ。
鬼の腕や足を破壊しても、他の鬼に対応している間に再生している。
それでも、じわじわとダメージは蓄積してはいるが、二人の消耗の方が激しい。
アトスはこっそり、二人に【自動回復】を駆ける。
万が一、二人の生命力が半分以下になった場合、全快させるトリガー式魔法だ。
「にゃははっ、やるな~」
「ふっ、この程度、俺には通じぬ!」
なんだか二人は楽しそうに戦っている。
それを見て、アトスもほほ笑む。
「「「「「フンヌッ!」」」」」
五体の鬼が陣形を組んだかと思うと、とんでもない威力の衝撃波が飛んでくる。
これは鬼のスキル『咆哮』の重ね掛けだ。
結界に守られたアトスは何ともないが、オトとショウは大ダメージを負ってしまう。
だが、その瞬間。
アトスがかけておいた【自動回復】で二人はあっという間に全快する。
「助かった~」
「今のは危なかった。アトス、礼を言う!」
「オト、俺が奴らを撹乱する。その隙に大技イケるか?」
「おっけー!」
ショウが高速の突進で鬼達を次々に攻撃する。
陣形が崩れた瞬間
「いっくよ~」
巨大な聖炎砲を放つ。
「「「「「グ、グォ、ォォォ」」」」」
「やったか?」
「へへ~、すごいでしょ~」
二人はようやく鬼達を倒した、かに見えた。
「まだだ! とどめを刺せっ!」
アトスが叫ぶ。
だが、時すでに遅し。
瀕死の鬼達が重なっていく。
あっという間に融合し、アトス達の眼前に一つ目の巨人が現れた。
『鑑定結果』
種 族: ギガース
ランク: S3
生命力: 80,000 / 80,000
スキル: 再生、咆哮、睨み付け
「気をつけろ! そいつは鬼より遥かに強いぞ」
アトスが叫んだ瞬間、ギガースが咆哮した。
およそ音として理解できな程の轟音が鳴り響く
その恐るべき衝撃に、迷宮が震動する。
オトとショウは全身を引きちぎられそうになりながら、大きく吹き飛ばされた。
「変わろう」
アトスが言う。
さすがにアレには勝てそうにない。
「まだ、やらせて。もうちょっとのはずなんだ」
「俺もだ。もう少しなんだ」
二人は何か目算があるようだ。
「分かった」
それなら、もう少し様子を見よう。
自動回復もある。そう簡単に死ぬことはない。
そうアトスは判断した。
ギガースが手に持った巨大な棍棒を振り回す。
風圧だけで、二人は立っているのがやっとだ。
間髪入れずに踏みつけてくる。
ギリギリのところで躱す二人。
ショウの全身全霊をかけた突撃も、オトの聖炎砲も、ギガースに傷一つ与えることができない。
それでも二人は、ギリギリのところで致命傷を避けながら、何度も攻撃を仕掛ける。
ギガースが少しうんざりしたように見えた、その時。
再びギガースは咆哮する。
二人は瀕死になるも、自動回復のおかげで全快する。
その様子をみて、アトスはもう無理だと思った。
二人の意思を尊重してもっと戦わせてやりたいが、これ以上は危険な気がする。
交代しよう、そう言おうとしたその時。
二人の身体が輝きはじめる。
「なんだ?」
アトスは戸惑う。
そんな魔法はかけていないぞ、と。
「おまたせ~」
「待たせたな」
二人はこの時を待っていたようだ。
ものの数秒で輝きが収まる。
「ん?」
アトスは目を擦り、もう一度二人を見た。
「アトス、どうしたの?」
「いや、二人とも少し大人びたような気がするんだが・・・・・・」
「うむ。オトも俺も成長したのだ」
「その為に、いっぱい戦ってたんだよ!」
そういう事だったのか。
あまりにも戦いを求める二人に、よほど楽しいんだろうと思ってはいたが、成長するためだったのか。
『二人とも、若体に成長した模様』
そうか。
オトは鳳凰の雛、ショウは麒麟の幼体だった。
成長段階が進んだということか。
成長した二人はギガースを圧倒する。
ショウの帯雷突進で四肢を切断し、オトの聖炎砲で焼き尽くす。
あっという間にギガースを倒してしまった。
「凄いな、二人とも」
「そうでしょ?」
「待たせたな」
子ども子どもしていたオトの話し方が、少しだけお姉さんになった気がする。
「あ、前の方が可愛かったと思ってるでしょ?」
オトはアトスの心が読めているかのように、軽口を言う。
「いや、まぁ・・・・・・その通りだが」
隠しても無駄だと、アトスは正直に言う。
「だが、今も可愛いぞ。少し美しさが増したが」
「照れるよー」
それに、ショウもイケメン度が増している。
オトと同じく、幼さが少し薄れ、より格好良くなった。
「とりあえず出ようか。恐らくここも・・・・・・」
思った通り、迷宮が崩れ始める。
転移門を開き、迷宮の外に移動する。
「さて、と。次は王都に向かおうか」
「「了解!」」
王都。
フォーレより遥かに賑やかだと聞く。
どんな街なのか、楽しみではある。
だがそれよりも、アトスはムラマサに早く会いたいと思っていた。
サダムネの師匠ならきっと、溜め込んでいる魔法具の案を活かしてくれる。
そう期待を込めて。
軽い足取りで王都に向けて走り出す。
次話は明日アップ予定。
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よろしくお願いします。