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第18話 商人の男

これにてようやく第2章完結です。


 万人向けの魔物討伐用プログラム魔法の開発を始めたアトス。

 まずは仕様を決める。

 というか、仕様さえ決まればほぼ完成と言っても過言ではない。

 プログラミングの内、『コーディング』の楽しさは味わえないものの、その煩わしさからは解放されていると言える。

 それに、あらゆるパターンを想定したエラー処理も必要ない。

 とは言え、多少の安全性セーフティは考慮しておく必要はある。

 例えば、魔物以外に攻撃魔法を放ってしまわないようにはしておかなければならない。


  範囲: 半径5m

  対象: 魔物(最大10体)

  威力: 込められる魔力の最大値÷10

  種類: 火、風、水、雷、土

  ※魔法石毎に一種類


 おおざっぱだが、仕様はこんなところか。

 よし、これを簡単に設計して・・・・・・


  プログラム魔法: 範囲攻撃(属性)

     開始処理: 魔物探索(半径5m)

     反復処理: 探知した魔物の数 と 10 の少ない方

       対象: 探知した魔物

       魔法: 刻印+属性攻撃


 後はこれを、各属性毎に魔法石にセットしていくだけだ。


 AIに魔力を計算させて【持続強化×3(10分)】の魔法石も用意する。

 それから・・・・・・

 アトスはプログラム魔法の開発と魔法石の準備に没頭する。


 その結果、最終的に今回用意した『商品』はこれだけになった。


  ・魔法の手マジックハンド[単]×40

  ・魔法の手マジックハンド[複]×50

  ・【範囲攻撃(属性・最大10体)】5属性×200

  ・【持続強化×3(10分)】×200

  ・【範囲回復(最大10体)】×200

  ・魔法の手マジックハンド起動用魔法石(120)×200


 魔法の手にセットする魔法石起動用魔法も含めて、およそ200,000程の魔力を消費したが、今のアトスにとっては一割にも満たないものだった。


 と言っても、アトスの恐ろしさはこの膨大な魔力量よりも、むしろ魔力出力量にあった。

 魔法をプログラミングしてしまうのも恐ろしさの一つだが、それを可能にする圧倒的な魔力出力量こそがアトスの強く恐ろしい能力なのだ。

 魔法を身に着けた途端に、魔力制御の修行──本人にとっては遊びに過ぎないのだが──を何千、何万と繰り返したことにより身に着けた、無制限ともいえる魔力出力量。

 膨大な魔力量は、それを下支えしているに過ぎない。

 もちろん、継戦能力という意味では大きな要因となっているのだが。


 ──


「さて、と。オト、ショウ、俺は一旦フォーレに行って魔法具を売ってくる。そっちは問題ないか?」

「問題ないよー」

「問題ない」

「何かあったら連絡してくれ」

 言いながら、アトスは転移門を開く。


 冒険者ギルド──この街では冒険者ギルドが商会ギルドを兼ねているのだ──に立ち寄り、これから新しい魔法の手と魔法石を販売する、と声をかける。

 こうする方が、いきなり広場で売るよりも人が集まる、ということをアトスは理解していた。


「「「「キターーーッ!!!」」」」

 ギルドに歓声が巻き起こる。


 一斉に広場に人だかりができる。

 誰が伝えたのか、騎士団の面々も集まってきた。

 新しい魔法の手の使い方、動力源となる魔法石のこと、それから新しいプログラム魔法を組み込んだ魔法石。

 そのどれもが好評で、見る見るうちに商品が無くなっていく。


「これは、なんの騒ぎですか?」

 身なりのいい男が尋ねてくる。

 その男が歩いてきた方を見ると、隊商キャラバンがあった。

 男はどうやら商人のようだ。

「魔法具だよ」

 誰かが答える。

「魔法具・・・?」

 聞きなれぬ言葉に首をかしげながら、商品の目の前までやって来た。


「これが魔法具というものですかな?」

 魔法の手を手に取り、尋ねてくる。

「あぁ、そうだ。『魔法の手』と言う魔法具だ」

「魔法の手、ですか。これは具体的にどう使うものなんです?」

「これはな・・・・・・実際に見た方が早いな。皆、ちょっと前を空けてくれ」

 動力を補填できない試作型を装着し、デモ用の魔法石をセットする。

「こうして、親指と人差し指をこんな感じで合わせると・・・・・・」

 商人らしき男の目の前で、火球と水弾が放たれる。

「なっ!? 今のは?」

「この魔法石に魔法を仕込んであるんだ。魔法の手は、その魔法を発動させる道具なんだ」

「魔法を仕込む・・・・・・発動させる・・・・・・はぁっ!?」

 驚くのも無理はない。

 魔法は本来、適性のあるものだけが扱えるものなのだ。

 それが、この手袋のような道具から放たれた。

 しかも、石に魔法を仕込んだなどと、到底理解できるものではない。


「ふむ・・・・・・。これを全部譲ってもらえないか」

 理解はできないものの、受け入れたようだ。

 それだけでなく、商人らしき男は『この魔法具にはとんでもない価値がある』と直感した。

「すまないが、一人二つまでなんだ。まだ量産できていなくてな」

「では、二種類を一つずついただこう。それから」

 魔法石についても詳しく教えて欲しい、と言われ、アトスは丁寧に説明した。

「では、6種類の魔法石を50ずつと、動力源のものを5個いただこう」

「「「「お、おい、俺達の魔法石が無くなっちまうんじゃ!?」」」」

「安心しろ。魔法石ならすぐに用意できる」

 一瞬、不穏な空気が流れかけたが、アトスの一言で事なきを得る。


「そういう事なら、魔法石の数を倍にしてもらいたいのだが」

「あぁ、構わない。結構な金額になるが、良いのか?」

「全く問題ありませんよ。むしろ、安すぎるぐらいです」

 安すぎるのか、とアトスは思った。

 だが、アトスは『誰でも魔法を使えるように』と考えている。

 これ以上値を上げてしまうと、庶民には手が出せなくなってしまうだろう。

「なら良い」

 そう言ってアトスは魔法石を取り出し、あっという間に魔法をセットする。

「い、いま、どこから取り出したのですかな?」

「あぁ、持ち切れないから収納空間にしまっているんだ」

「・・・・・・」

 男は絶句する。

 そこに居たクレイドがポンッ、と男の方を叩く。

「分かる、分かるぜその気持ち」

 と、しみじみ言う。


「名をお聞きしても?」

 気を取り直し、男が尋ねる。

「アトスだ」

「アトス殿。私はカイルと申す。商人です。以後お見知りおきを」

 そう言って会釈をする。

「カイル、こちらこそよろしく頼む」

 カイルはにっこりとほほ笑む。

「俺は誰とでも対等の付き合いを望んでいる。上下関係はなしで頼む」

「分かりました」


「少しお時間をいただいても?」

「商品を売り終わるまで待っていられるなら、いいぞ」

「では、お待ちしております」

 そう言ったものの、あっという間に完売してしまった。


「待たせたな」

「いえいえ、大変な人気でしたね」

「有難いことにな。数が少ないというのもあるが」

「ところで・・・・・・」

 本題に入る。

 魔法具の今後の展望、量産体制など、『商品』に関することを一齣ひとくさり話した。

「アトス殿、あなたにとって魔法具とはなんですかな?」

 カイルは問う。

 それは、アトスの商人としての哲学を問うものだ。

 ただ儲けるために売る、人々の生活の一助を担いたい、等々、商人によって様々な答えがあるだろう。

「楽しみ、だな」

 アトスは即答する。

「楽しみ、ですか」

「あぁ。もちろん、万人が魔法を使えるように、という想いはある。それをとても大切にしたいと考えている」

「なるほど。それでも、楽しみだと」

「そうだ。俺にとって魔法具を考えること、作ること、これは楽しみ以外のなんでもない」


 アトスは言う。

 楽しくなければ続けることはできない。

 楽しくなければ良いものを作ることはできない。

 もちろん、商売として割り切れば、継続することも可能ではある。

 だが、それで作り出すものは例え一級品だとしても面白くない、と。

 楽しくて、夢中になって、没頭して出来上がるもの。

 そこに趣が生まれるのだ、と。


 面白い人だ、とカイルは感心する。

「アトス殿、私はユマランの王都オービに居を構えております。近くに来られた際はぜひお立ち寄りください」

「ユマラン、オービ・・・・・・」

「ご存知ありませんか?」

「済まんな。俺はここフォーレの街以外知らないんだ」

「なんと! そうでしたか。では、これを差し上げます」

 そう言って、一枚の地図をアトスに手渡す。

「地図か。助かる」

「いえいえ、このぐらいお安い御用です」

「オービは・・・・・・ここか」

「遠いでしょう。この国『タンバサ』は大きな島国ですから、ユマランまで一カ月近くかかります」

「そんなにかかるのか」

「えぇ。馬車で一週間、船で一週間、それからまた馬車で一週間ほど。ここフォーレにはさらに五日ほどかかりますな」

 そんなにかかるのか、とアトスは驚いた。


「今回、数年ぶりにここまで足を伸ばしたのですが、大正解でした。アトス殿と出会えたのはこれ以上ない幸運ですな」

 そう言って高らかに笑うカイル。

 後々この出会いを人生最大の幸運だと公言するぐらい、彼にとって大きな出会いであった。


「長らく引き留めてしまいましたな。アトス殿、今後ともよろしくお願いしますぞ」

「あぁ、こちらこそ頼む。地図、ありがとう」

「いえいえ。では、また」

「あぁ、またな」

 そう言って、アトスとカイルは別れた。


 アトスは久々に熱く語ったのだが、カイルはそれを真っ直ぐに受け止めてくれた。

 カイルもまた、自らの情熱を注ぐに値する、素晴らしき若者だと思っていた。

 お互いにとって、運命の出会いであった。


「アトス!」

 紅のメンバーが駆け寄ってくる。

「さっきの、カイル商会の会長らしいわね。アンタ、何かしたの?」

 ナタリーはアトスを心配しているらしい。なぜか怒っているようにも見えるが。

「あぁ。商談をしてただけだ」

「商談? カイル商会の長と? アンタは本当に・・・・・・」

 呆れたように、ホッとするナタリー。

「魔法具を売ってくれって話か?」

 クレイドが聞いてくる。

「いや、それもあるだろうが、これからの話、だな」

「まだ何か企んでるの?」

 ナタリーがジト目で見てくる。

「ま、色々と、な」

 呆れた、とため息交じりに言うナタリー。


「ところで、アトスさん」

 レオナが何か言いたげだ。

「この辺りを魔物を狩っていた冒険者たちが、目の前で獲物が消えたって言ってたんだけど、何か知らない?」

「・・・・・・あ。そう言えば、範囲を広げて魔物を一層したな」

「アンタねぇ、人様の獲物を横取りしてんじゃないわよ」

「あのね、アトスさん。冒険者は魔物を狩って、ギルドに報告することで生計を立てているの」

 圧を感じる。

「僕たちも目の前で獲物が消えたんです・・・・・・」

 こぼすようにイリスが言う。

「ま、俺達は幸いなことに余裕もあるし問題は無いんだがな」

 クレイドが少しアトスをフォローする。

「冒険者たちを酒場に集めてくれないか」

「分かった」


 酒場に行くと、なぜか騎士団まで居た。

「なんで森の騎士団まで居るんだよ!?」

「あ、あぁ。話の流れで何となく、あ」

 リチャードが少し申し訳なさげに言う。

「アトスさんっ! 新型の魔法具と魔法石サイコーっす!」

 空気を読まないアーサー。

 だが、アトスは少し救われた気持ちになった。


「まぁいい。今日は俺のおごりだ。思う存分やってくれ!」

 半ばやけくそ気味に言う。

 だが、これで冒険者たちにかけた迷惑の贖罪になるなら安いものだ。

 全員に飲み物が行き渡ったのを見計らってアトスが口を開く。

「皆、済まなかった。以後気を付ける」

「いいっす。むしろ、奢ってくれるんならいつでもやってくれ!」

 誰かが軽口を言い、笑いの渦が起こる。


「気のいい奴らばかりだな」

 アトスが零す。

「でしょ。アンタも見習いなさいよ」

 いつの間にか隣にいたナタリー。

「そうだな」

「ふふっ」

 珍しく、可愛げのある笑みを浮かべる。

「らしくないぞ。何かあったのか?」

「ばっ、ばか!」

 行ってしまった。

「あら、アトスさん。怒らせちゃったわね~」

 レオナがからかってくる。

「まずかったか?」

「ま、大丈夫よ」


「ところで、ホカーラタに行ったことはあるか?」

「あるわよ~。王都だけあって、賑やかなところよ」

「そうか」

「行くの?」

「近くに用事があってな」

「それなら話は早いですね」

 後ろから話しかけてきたのはギルド管理人ミィカだ。

「ここにいらっしゃると聞いたので」

「なにか用か?」

「はい。実は・・・・・・」

 以前報告した迷宮の件、それを制圧したこと。

 それをギルド本部に報告したところ、王都周辺でも同様の事象が確認されているらしく、協力要請があったらしい。

「アトスさん、ギルド本部からの協力要請、受けていただけませんか」

 深々と頭を下げるミィカ。

「頭を上げてくれ。もちろん協力させてもらう。俺にとても利のある話だからな」

 そう言ってアトスは地図を広げる。

「大まかでいいから、迷宮の位置が分かるか?」

「はい、ここ、ここ、ここ・・・・・・」

 ミィカに印をつけてもらう。

 王都周辺の迷宮は、思ったより沢山あるようだ。


「助かる」

「いえ」

「じゃ、早速行ってくる。ここの支払いはこれで頼む」

 ドサッ、と銀貨・銅貨の入った袋を渡す。

「こんなにっ?」

「余ったらまた皆に奢ってやってくれ」


 アトスは酒場を後にする。


 一度サダムネの工房に立ち寄り、完成した魔法の手を受け取る。

「これから王都方面に向かう。お前の師匠に出会えると良いんだが」

「会えたら、よろしく伝えてくれ」


「オト、ショウ。俺はこれから王都に向かうが、お前たちはどうする?」

「行くー」

「行こう」


 転移門で集合し、アトス一行は王都目指して旅立った。


次話は明日アップ予定。

第3章、王都編お楽しみに。


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