第17話 魔法の手
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ギルドに入ると、まず二つの迷宮の報告をする。
特に依頼を受けていたわけではないが、前の迷宮の異変と関係があるかも知れない。
アトスはそう考えていた。
黒い法衣の男たちも気になるが、それは伏せておくことにする。
鳳凰と麒麟のことを言っていた奴らだ。
変に話すと街の皆にも詮索されることになるかも知れない。
「情報提供、助かります。本部に報告しておきます」
管理人は恭しく礼を述べる。
それが逆に、いつもよりどこか他人行儀に感じるアトスだった。
「そう言えば、ショウはまだギルドに登録していないな」
本来なら街に入れないのだが、アトスの功績があまりにも大きすぎてスルーされていた。
それに、今回のように転移門を使ってしまうと門番も形無しである。
ショウのギルド登録と、オト、ショウそれぞれのランクアップを行う。
討伐してきた魔物達の依頼を全て受注し、報告する。
ランクアップしたら、また上のランクの依頼を受注して報告する。
その場で二人ともBランクまでランクアップしてしまった。
ちなみに、アトスはAランクである。
アトスに至っては、アメミット・マンティコアの討伐依頼が出ていれば恐らくSランクになれるだろう。それほどの途方もない数を殲滅してきたのだ。
ほんの数日であっという間にAランク、Bランクまでランクアップするなどあり得ないのだが、もはやギルドに居る面々は驚くことを諦めているようだった。
「そんなことより、こっちが本題なんだ」
「「「「そんなこと、か。相変わらずだな!」」」」
驚くのを辞めても、突っ込む元気はあったようだ。
「新商品を作ってみたんだが、見てくれないか」
アトスがそう言うと、全員が一気に食い付いてくる。
「新しい魔法石か?」
「数は? たくさんあるのか?」
等々、誰もが魔法石の再販を待ち望んでいたようだ。
「魔法石はまぁ、大量に集まってはいるんだが、これを見て欲しい」
そう言って、アトスは【魔法の手】を取り出す。
「「「「手袋?」」」」
パッと見ただけでは分からなくて当然だ。
そこでアトスは、外に出て実演することにした。
まずはお試し用の魔法石を用意する。
(ちょっと迫力があった方が目を引くだろうから、火球と水弾を出してぶつけ合うって感じにするか。これなら安全かつ迫力が出せるだろう)
「これを手にはめて、魔法石をセット。で、こっちを逆の指につける」
説明するように話しながら、魔法の手を装着する。
「で、こっちの指でここを触ると」
ドンッ! バシュッ!
火球と水弾が同時に発動し、数m先でぶつかりはじけ散った。
・・・・・・
・・・
「「「「えっ!!」」」」
「「「「な、何が起きた!?」」」」
少しの静寂の後、大きなどよめきが起こる。
(よし、反応は上々だ)
「これは魔法石を発動させる魔法具、魔法の手だ」
「「「「マジックハンド!」」」」
「魔法を使えない者でも、魔法の手と魔法石があれば、魔法を放つことができる」
「「「「なんだってー!!」」」」
「「「「買う! いくらだっ!」」」」
アトスの目論見通り、いや、それ以上の食い付きだ。
「今回、お試し価格で安く売ろうと思う。その代わり、評価をして欲しい」
「「「「評価?」」」」
「実際に使ってみて不便な点や改良点なんかを教えて欲しい」
「「「「分かった。で、いくらだ?」」」」
まず、200回程度の魔法石発動で、魔法の手は使用不可となる点も説明する。
「とりあえず、今回の分は銀貨7枚でどうだ?」
「「「「安すぎる! 今すぐ売ってくれ!」」」」
「一人二つまでだ。両手に装着する分があれば十分だろう」
50個用意した魔法の手は、あっという間に売り切れた。
サダムネに払った銀貨2枚と素材分、それを差し引いてもぼろ儲けである。
(次からはもう少しサダムネに報酬を支払おう)
そう思うアトスだった。
──
数時間後、魔法の手を使用した者達から意見が出始める。
「両手につけても2種類の魔法石しか使えないのがちょっと不便かな」
「魔物毎の討伐魔法だから、2種類だと心許ない」
「片手で発動できるようになると、戦闘中でも使いやすいと思う」
「複数の種類の魔法石をセットして、選んで発動とかできないかな」
「声で発動できないかな」
「畑の水やりに、雨を降らせるだけの魔法石が欲しいわ」
「雨を降らせるだけの魔法石なら今すぐ作れるぞ。銅貨1枚でいい」
「そんなに安くていいの? じゃあ30個欲しいわ」
「ほら、できたぞ」
「ありがとう!」
どうやら畑の水やりは重労働のようだ。
その女性はとても喜んで去って行った。
「皆、意見ありがとう。どう改良できるか分からないが、今より良いものができたらまた売らせてもらう」
「「「「待ってるぞー!」」」」
アトスはサダムネの工房に転移門を繋ぐ。
「「「「えっ!?」」」」
「じゃ、また来る」
「「「「なんだそりゃーっ!」」」」
叫び声をスルーして、アトス達はサダムネの工房に移動し、転移門を閉じた。
──
「サダムネ、相談があるんだ」
「なんだ?」
魔法の手の改善案を説明し、サダムネの意見を聞く。
まず、片手で発動する点について。
安全レバーのようなものを取り付け、人差し指と親指を合わせると発動するようにする。
一つの装着で済み、誤作動の問題もかなり防げる。
この点についてはこれで決定。
次に、複数魔法石のセットについて。
これは少し難しい。
魔物討伐に限定するなら、トリガー魔法に条件分岐を組み込めばある程度は対応できるが、そうなると使用者の自由度が損なわれる。
条件分岐に組み込んだ魔法石しか使えなくなるのだ。
物理的なトリガーを複数用意する案も出た。
親指は固定で、人差し指、中指・・・・・・と、指ごとに発動する魔法石を変更する。
それぞれの指に対応する魔法石スロットを備えることで、最大四種の魔法石がセット可能だ。
懸念点は『魔法石の使い分けには使用者の技量が必要になる』ということ。
誤って意図せぬ魔法石を発動する、というのが容易に想像できる。
だが、ここは割り切って、魔法石一つ版と区別することにする。
技量の部分は使用者に委ねるのだ。
最後に、声で発動する、という点。
結論を言うと、これは見送ることにする。
理由は、使用者の声を登録・認識する必要がある、ということ。
不可能ではないと思うが、魔力消費が大きくて今の素材では賄えないだろう。
「魔法石なんだが」
サダムネがなにか気づいたようだ。
「何かあるのか?」
「これを見てくれ」
サダムネは魔法石(小)を取り出す。
が、どこかが違っている。ただの石ころのようにも見えるが、何かが違う。
「これなら俺にも魔法石だと分かるんだ」
何が違うのか。アトスは鑑定してみた。
魔法石(小): ★★
魔法数: 0 / 1
魔 力: 0 / 60
「ん?」
魔法石に★が二つ付いている。
アトスは自分の持っている魔法石(小)を鑑定してみる。
魔法石(小): ★
魔法数: 0 / 1
魔 力: 0 / 30
今まで★なんて出てたか? と首をかしげる。
だが、すぐに思いつく。
「これは、レア度か?」
『そのようです。レア度によって魔法石の純度が異なっています。★一つのものはあまりにも純度が低いため、ほとんどの者にはただの石に見えるのでしょう』
AIが詳しく解析してくれたようだ。
「純度が上がっている、のか?」
「そうだと思う」
「何をしたんだ?」
サダムネが何らかの加工をして純度を上げたのだとアトスは考え、その方法を尋ねた。
「何もしていない」
「えっ?」
「ただ袋にまとめて入れていただけだ」
サダムネには、魔法具の開発の参考にと魔法石(小)を三つ預けていた。
「それだけ?」
「あぁ、それだけだ。しばらくして中を確認するとこうなっていた」
「残りの二つも同じなのか?」
「実は、数が一つ減っていたんだ。そして、もう一つは何も変わっていない」
まとめると、こういうことか。
・魔法石(小)は三つあった。
・それをまとめて袋に入れていた。
・しばらくして中を確認してみると、魔法石(小)は二つになっていた。
・そのうちの一つが★二つの魔法石(小)だった。
アトスは思考を駆け巡らせる。
そこから推察するに、魔法石(小)★を二つ一緒に置いておくと、魔法石(小)★★に変化する、ということか。
『恐らく、二つの魔法石(小)から純粋な魔法石部分を抽出し、質量が変わらぬように残りを不純物で補填したのだと思われます』
なるほど。で、余った不純物は消滅したということか。
魔法石にそんな性質があったとは。
・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・待てよ。
ということは、収納空間内の魔法石(小)にも同じことが起こっているのか?
『それはありません。なぜなら、収納空間内の物は任意のタイミングで取り出せるよう、区分けされた空間にそれぞれ格納されているためです』
残念だ。
だが、それに関して言えば、例えば魔法石を詰め込んだ袋を収納しておけば解決できるかも知れない。
アトスにはもう一つ気になることがあった。
さっき、AIは『質量が変わらぬように残りを不純物で補填』と言った。
ということは、魔法石(小)★★を二つ一緒に置いておくと、さらに純度が増す可能性があるんじゃないか?
これらを実験するため、アトスは大量の魔法石(小)を取り出し、袋に詰める。
袋に入れる理由は、箱よりも伸縮する袋の方が、魔法石の数が減っても魔法石同士が接したままになるからだ。
この袋詰めを二つ用意し、片方は収納空間にしまっておき、もう片方はサダムネの工房に置いておく。
・収納空間でも純度が上がるのか。
・★★よりも純度が上がることがあるのか。
この2点を同時に実験するためだ。
アトスが思考し、実験の準備をしている間に、サダムネが新型魔法の手を作り終えていた。
「これでどうだ?」
魔法石一種類版は、人差し指と親指だけの手袋のような形をしている。
手首の辺りにスライド式のロック機構がついている。
魔法石スロットには、20個の魔法石がセットできる。
魔法石複数種類版は、手袋そのままの形だ。
ロック機構は一種類版と全く同じで、魔法石スロットが異なっている。
魔法石を5個セットできるスロットが四つ用意されている。
どちらも見た目は上質な革手袋のようですごく格好いい。
「それから、できるかどうかは分からないんだが」
前置きをして、サダムネは自分の考えを述べる。
「この魔法石から、魔法具へ魔力を供給できるんじゃないか? と考えている」
「マジか! それができると魔法の手を使い捨てにしなくて済むじゃないか」
アトスは驚くとともに、嬉しそうだ。
魔法具──今は魔法の手だけだが──を使い捨てにしたくなかった。
何とかできないか? と思っていたが、よい案が浮かばなかったのだ。
「できそうなのか?」
「思いついていることがあるんだが、試しに作ってみてもいいか?」
「もちろんだ」
サダムネは工房に入っていく。
それが実現できれば、アトスが思い描いているいくつかの魔法具の案が実現に近づく。
それに、もっと面白いこともできるかも知れない。
そう考えるだけで、アトスは心の底からワクワクする。
アトスが妄想していると
「できたぞ」
「お、あぁ」
一瞬取り乱すアトス。
(アトスー、また不気味な顔してたよー? )
オトがジト目で見てくる。
(い、いや、これは、だな・・・・・・)
必死で誤魔化そうとするアトス。
「魔法石に魔力だけをセットしてくれ」
「魔力だけ?」
「そうだ」
サダムネの申し出に、アトスは心の中で(ナイス! )と思った。
「これでどうだ?」
とりあえず魔法石(小)★に魔力を込めてみた。
「よし、これをここにはめ込んで・・・・・・これでどうだ?」
アトスはまず、魔法を発動するトリガー式魔法を試作型魔法の手にセットする。
そして、実演用の魔法石をセットする。
「安全バーをスライドして、人差し指と親指を合わせる、と」
ドンッ! バシュッ!
火球と水弾が同時に発動した。
「魔法石を鑑定してくれ」
魔法石(小): ★
魔法数: 0 / 1
魔 力: 29 / 30
「おぉ、魔力が1減っている」
「成功だな」
サダムネは小さくガッツポーズをする。
「サダムネ、これの魔法石一種類版と四種類版を30~50ずつ作って欲しい」
「あぁ、任せろ!」
アトスもサダムネもすごく楽しそうだ。
一方・・・・・・・
「アトスー、また魔物狩りに行ってきてもいい?」
「あ、あぁ、そうだな。二人とも行っていいぞ」
退屈していたオトとショウはあっという間に魔物狩りに行ってしまった。
一人になったアトスは、そう言えば、と収納空間から袋を取り出す。
魔法石(小)を詰め込んだ実験の袋だ。
明らかに質量が減っている。
ざっと1/4というところだ。
「半分以下、だな。どういうことだ?」
魔法石を一つ取り出し、鑑定する。
魔法石(小): ★★★
魔法数: 0 / 1
魔 力: 0 / 120
「おぉ、レア3!」
思わずアトスは声を上げる。
『純度100%です』
AIが言う。
ということは、レア度は★三つが最高ということだろう、とアトスは判断する。
魔力120、これならセットする魔法を色々と工夫できそうだ。
アトスは早速、プログラム魔法の開発に取り組み始めた。
次話は明日アップ予定。
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よろしくお願いします。