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第16話 屍竜


 皆が走り出す直前、アトスは二人に持続強化×3をかける。

 10倍ぐらいの持続強化をかければ良いのでは? と思うところだが、持続強化は倍率を上げれば上げるほど指数関数的に消費魔力が増えていく。

 必要に応じて倍率を調整するのが良いとアトスは考えているのだ。


「何が出てくるか分からない。油断はするなよ」

 そう言って、アトスは二人に背を向ける。

 二人が十分に遠く離れたことを確認し、アトスはAIの戦闘モードをオンにした。


 (先に全滅させてしまうと、あいつらに文句を言われるからな)

 アトスは苦笑する。


「アトスー、アメミット? が居たよー」

「こっちにはマンティコアが居る」

「勝てるか?」

「「もちろん」」

 念のため、アトスは二人の持続強化の倍率を上げておく。

 そのおかげで、二人はそれぞれ対峙したSランクモンスターを瞬殺する。

 だが・・・・・・

「えぇー、また出てきたー。わっ、いっぱいいるー」

「こっちもだ」

 どうやら、二人の前に多数のSランクモンスターが出現したらしい。

 さすがにマズいか? と思ったその時


「グ、グォ、グルォォォォ!!!」

 地の底から鳴り響くような、おぞましい叫びがアトスの耳を襲う。

「なんだ!?」

『魔物が出現中です。おそらく屍竜ドラゴンゾンビと思われます』

 まだ出現しきっていないため、確実な鑑定はできないようだ。


「それはまた厄介そうな相手だな」

 そう呟きながら、アトスは考える。

 ゾンビってことは、聖なる力が効くんじゃないか?

 確か、オトは聖なる炎を使えたはず。


「オト、ショウ、お前達、聖なる力を使えるな?」

「うん」

「あぁ」

 よし、思った通りだ。

 アトスは心の中でガッツポーズをする。


「俺の目の前に、屍竜が出現したんだが、お前達こいつの相手をしてみないか」

 厄介そうな相手だが、戦いには相性というものがある。

 アトスなら、大量のSランクモンスターも恐らく楽勝だ。

 そして聖獣であるオトとショウなら、屍竜が相手でも互角以上に戦える可能性がある。


「「やる!」」

 アトスはそれぞれの居る場所に転移門を開く。

 

 こんなことがあるのか? と目を疑うほどのSランクモンスターがいる。

「なるほど、そっちも中々骨が折れそうだな」

「恐らく屍竜の影響だろう」

 ショウが言う。

「異常なほどの瘴気とマナがこの空間に満ちている」

 マナ? アトスは首をかしげる。

 だが、今はのんびりしている場合では無さそうだ。


「じゃ、やるか」

 そう言ってアトスは転移門の先へAIの戦闘機能を向ける。

『マスター、転移門を開いたままにするのは魔力消費が激しすぎます。今のマスターの魔力量なら、私に並列処理能力を付与できると思います』

 魔力消費を気にせず、高機能会話モードで話しかけてくる。

「分かった。やってみよう」

 並列処理なんて飽きるほどプログラミングしてきたアトスにとって、魔法でその機能を組み込むのは造作もないことだった。

「できたぞ」

『『デハ、アチラトコチラヲソレゾレタイオウシマス』』

 さすがに並列起動すると魔力消費量が激しく、低機能モードに切り替える必要があったようだ。


 転移門を閉じたアトスだが、遠隔でAIが魔物を討伐していることは理解できる。

 というか、そもそもAIとアトスは一心同体のようなもの。

 AIの行動は、アトスにも分かる(・・・)のである。


 まだ魔力には余裕があるが、とは言え消費量も半端ない。

 できるだけ早く決着をつける必要がある。


「オト、ショウ、行けそうか?」

 屍竜と戦っている二人に目を向ける。


「うん、と言いたいけど、中々強いよー」

「傷を与えてもすぐに回復している。厄介なやつだ」

 聖なる力を以ってしても、容易に倒すことはできないようだ。


 気を抜くと、時折吐いてくる腐食ブレスの餌食となってしまう。

 巨体を活かした引っ掻き攻撃や羽ばたきによる風圧も厄介で、二人の行動を大きく制限している。

 それでも、二人は上手く攻撃をよけながら、聖なる炎・雷で攻撃を続けている。


 そんな二人を横目にアトスは

 (魔力が持つ間はこのまま戦ってくれていると魔法素材が手に入り放題だな)

 などとセコい事を考えていた。

 今のところは二人も戦いを楽しんでいるようなので、Win-Winと言ったところだろうか。

 ・・・・・・

 ・・・

 オトとショウは、屍竜と一進一退の攻防を繰り広げている。

 この戦いは二人を大きく成長させるだろうな、とアトスは思う。

 だが、あまり悠長なことを言ってばかりもいられない。

 Sランクモンスターを殲滅し続けているアトス(のAI)だが、並列で高度な魔法を使い続けているため魔力がぐんぐん減っているのだ。

 さすがのアトスと言えど、魔力が尽きるのも時間の問題だ。


 (そろそろだな)

 魔力残量を考慮すると、そろそろ倒す頃合いだと判断したアトスは、屍竜をじっくり鑑定する。

 すると、屍竜の体内にコアが存在しており、それが弱点だという事が分かった。

「オト、ショウ、そいつの体内にあるコアを狙え」

「核? ・・・・・・あれかー!」

 オトとショウの攻撃で崩れては再生を繰り返す屍竜の身体。

 その一瞬の隙間から、宝石のような何かが見えた。


「オト、全力で聖なる炎を放ってくれ。核が見えた瞬間、俺が聖雷とともに突進する」

 確実にとどめを刺すため、雷を放つのではなく身に纏って突進する。

 ショウの一か八かの賭けであった。


「いくよー」

 オトは極大の聖なる炎を放つ。

 屍竜を丸々飲み込むほどの炎だが、屍竜の再生速度が速く、核を破壊するには至らない。

 だが、一瞬核が見えたその瞬間

 シュンッ!!

 閃光が見えたかと思った瞬間、屍竜の核は粉々に砕け散る。

 元々稲妻のようなショウに持続強化×10がかかっているのだ。

 あの動きを見切れるものはそうそう居ないだろう。


「やったな、二人とも」

 屍竜を倒したことで、アメミットもマンティコアも新たに出現することはなくなった。

 残党をあっさり殲滅したアトスが、二人に労いの言葉をかける。

「お疲れさん。二人が居なかったら屍竜アイツは倒せなかったろうな」

「でしょー。オト頑張ったよー」

「うむ。中々に厄介な相手だったな」

 (ねぇ、ショウ。アトスって自分が聖なる力を使えること知らないのかな)

 (どうやらそのようだ。我々の出番が無くなっても困る。しばらくは黙っておこう)

 (そだねー)

「ん? どうした?」

 何となく二人の様子がおかしいと思ったアトスだが

「あー、楽しかった」

「そうだな。あれほどの歯ごたえのある相手は久しぶりだ」

 と二人は誤魔化した。


 これで二人の不満も解消されただろう、とアトスは一安心する。

 ((ホッ・・・・・・))

 こちらの二人も上手く誤魔化すことができた、と胸を撫で下ろす。


 それぞれの思惑は異なっていたものの、穏やかな空気が流れる。

 しかし、それは長くは続かない。

 三人の居る空間が大きく振動を始める。

「脱出するぞ」

 アトスはサダムネの工房に転移門を繋いだ。


「な、なんだ? お前達、どこから・・・・・・」

「ちょっと転移門を、な」

「転移門?」

「えっとねー、すごく遠い所とここをつないだんだよねー」

「そういうことだ」

「・・・・・・」

 サダムネは絶句する。


「ところで、いくつか作れたか?」

「あぁ、とりあえずはこれだけだが」

 隣のテーブルに、50セットの魔法具が置かれていた。

「もうこんなにできたのか」

「コツを掴めば、これぐらいはな」

 アトスは収納空間から銀貨を取り出す。

「報酬の銀貨100枚だ」

「そんな大したことはしてないから受け取れん」

「最初に約束しただろ? 正当な報酬だ。受け取ってくれ」

 サダムネは観念したように報酬を受け取る。


「ところで、これの名は何と言う?」

「名前、か」

 アトスは何も考えていなかった。

 魔法石を発動する、籠手、グローブ、手袋、・・・中々いい案が浮かばない。

「魔法の手って感じだねー」

 オトがポロっと言う。

「それ、いいな。魔法の手マジックハンドにしよう」

 商店に並べる初めての魔法具は『魔法の手』に決まった。

 アトスは、早くフォーレの街に戻りたい気持ちをグッと抑え、サダムネに話しかける。


「こんな感じのものを作りたいんだが」

「むぅ。それは面白い・・・・・・が、俺には荷が重いかも知れん」

「やっぱり難しすぎるか」

「だが、師匠なら、もしかすると」

 サダムネには師匠が居るようだ。

「師匠、か。どこに居るんだ?」

「今は王都から少し離れたところに住んでいると聞く」

「近いうちに訪ねてみよう」

「師匠はこういう新しい物を作るのは好きだから、きっと食い付くと思う」

「へぇ。それは期待できそうだ」


『王都』

 アトスはまだ見たことも聞いたこともなかった。

 どんな所だろう? とはやる気持ちを抑える。


「まずは、魔法の手だな」

 そう言って、フォーレの冒険者ギルド前へ転移門を繋げる。


次話は明日アップ予定


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