第15話 魔法具
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川沿いの細い道の先に、ポツンと1軒小屋が建っている。
煙突からもくもくと煙が上がっている。
「何か用か?」
小屋から出てきた若い男が話しかけてくる。
頭に手拭いをまいた面長、細身の男は、『サダムネ』と名乗った。
「鍛冶師を探しているんだ」
「何のために?」
「作って欲しいものがあるんだ」
「ただの剣や盾なら他を当たってくれ」
そう言って男は踵を返す。
「誰でも魔法を使える魔法具を作って欲しいんだ」
「魔法具?」
「あぁ。魔法素材ってのを使えば作れるような気がするんだが、俺は鍛冶はできなくてな」
「詳しく聞かせてくれ」
アトスは、魔法銃とでも呼べそうな、魅力的な道具の構想をサダムネに伝える。
誰でも魔法を使えるようにしたい。
と言っても、魔法石を発動させるだけなのだが。
ただ、アトスの考えでは魔法を使えるものにも有用なものになるはずだ。
例えば手袋のように装着し、魔法石をいくつかセットできれば、魔法石を取り出す手間もなく簡単に魔法石を使用できる。
「なるほど、それは面白そうだな」
サダムネは興味津々のようだ。
「だが」
魔法石自体を知らないサダムネからすれば、本当にそんなことが可能なのか? と半信半疑になるのも仕方ない。
「これを持って、魔法を発動しようとしてくれ」
そう言って、アトスは近くの木に雷を落とす魔法を仕込んだ魔法石を渡す。
「こう、か?」
ピシャーン!
「こ、これは。今の石から魔法が放たれたのか」
「あぁ、そうだ」
「なるほど。で、この石を詰めて、魔法を使えないものでも発動できるようにしたいんだな?」
「あぁ。その素材には魔法をセットできるんだ。何かをトリガーにして魔法石を発動させる魔法をセットしておくのはどうだ?」
ふむふむ、とサダムネは何やら考え始めた。
・・・・・・
・・・
「暴発を防ぐ仕組みも必要だな。こういうのはどうだ?」
サダムネの案は、接触型のトリガーだった。
本体と別にトリガーを用意し、トリガーが本体に接触すると魔法石を発動するというものだ。
この仕組みであれば、暴発を防ぎつつ簡単に発動できそうだ。
「問題は魔力だな」
サダムネは、継続使用する際の問題に気づいた。
この仕組みでは、魔法石を発動するための魔法を使用する。
つまり、魔力を消費するのだ。
その魔力をどう供給するかが難しい。
「最初は、魔力が切れたらおしまいってことでどうかな」
アトスが言う。
「魔力の供給方法は模索し続けるしか無さそうだが、それ以外にも作ってみたら改良点が出てくると思う」
「そうだな。まずは試作品を作ってみよう」
「あぁ、頼む」
「アトスー、遊んできていい?」
「俺もまだまだ修行が足りない」
オトとショウは少し退屈しているようだ。
「あぁ、いいぞ」
言うが早いか、二人はあっという間に見えなくなった。
「できたぞ」
「早いな」
早速、サダムネが試作品を持って来る。
「本体は手袋型、トリガーは指サックにしてみた」
「これなら装着しやすいし動きの邪魔にもならなくて良い」
「この指サックの先で本体のここに触れると反応するようになっているんだ」
「なるほど。じゃあこの反応をトリガーにして、魔法石を発動する魔法を組み込んでみよう」
そう言ってアトスは、トリガー式魔法石発動魔法というちょっとややこしい魔法を開発する。
そして、この魔法具に込められるだけの魔力とともに魔法をセットしてみた。
「使ってみてくれ」
そう言って、魔法をセットした試作品をサダムネに渡す。
サダムネは本体を左手に装着し、魔法石をセットする。
「行くぞ」
そう言って、右手にトリガーを装着し、本体の起動スイッチに触れる。
ピシャーン!
雷が落ちる。
「おぉ、成功だ!」
喜ぶアトス。
「あとは魔法石をいくつセットできるようにするか、だな」
サダムネは冷静に改善点を考えている。
「とりあえず、10個ぐらいセットできるようになるか?」
「それならできそうだ」
そう言って、再び工房に入るサダムネ。
アトスは川を眺めながら、考え事をしている。
「ほら、できたぞ」
あっという間に完成させるサダムネ。
「早いな。これ、大量に作って欲しいんだが、出来るか?」
「あぁ。素材さえあれば、な」
「報酬は1つにつき銀貨2枚でどうだ?」
「十分だ。楽しいうえに報酬ももらえるんだ。文句はない」
「じゃあ、素材を集めてくる」
今持っている素材を全て工房に置いて、アトスは魔物狩りに出向く。
あぁ、そうだ。とアトスは立ち止まる。
「AI、フォーレの冒険者ギルドを基準にして、立ち寄り先の座標を記録することは可能か?」
『ハイ、カノウデス』
「なら、一度行った場所なら安全に転移門を開くことができそうだな」
『モンダイアリマセン』
こうしてアトスは、一度訪れたことのある場所には転移門を開くことができるようになった。
──
「オト、ショウ」
もはや普通に話す感覚で思念通話をするアトス。
「なにー?」
「どうした?」
「俺も狩り勝負に参加しようと思ってな」
「おっけー」
「負けないぞ」
「じゃ、今から勝負だ」
そう言って、オトとショウの分も集計するようAIに組み込もうとするアトスだったが
『すでに組み込まれています』
本当によくできたAIである。
さて、じゃあ俺はオトとショウが向かっていない方に行ってみるか。
アトスは【持続強化×10】をかけ、猛スピードで移動する。
その際も、半径1kmというとんでもない範囲をAIに探索・討伐させている。
魔法を使い続けているアトスの魔力はとんでもない速さで成長を続けており、この程度の魔法ならもはや自然回復速度と釣り合う程度に過ぎなかった。
これが、後々冒険者ギルドで苦情を受けることになるとは露知らず。
『人間の反応があります』
AIからの報告だ。
「行ってみよう」
アトスは探知した方角へ向かう。
「なぜだ!?」
「魔物が一瞬で消え去るとは」
「・・・・・・まぁいい。ここには我らが総力をかけたアレを仕掛けてある」
「そうだな。魔物など、いくらでも湧いて来よう」
AIが探索魔法を応用して、探知した人間の会話を聞こえるようにしてくれた。
すると、なにやら怪しげな会話が聞こえてくる。
「鳳凰は無事に葬ることができたようだが、麒麟についてはまだ不明だ」
「反応がなくなったとの報告はあるが、まだしばらく様子を見る必要がある」
「それに・・・・・・っ!!」
アトスが接近すると、黒の法衣を纏った二人組は足早に立ち去って行った。
ん? 見覚えがあるような・・・・・・? とアトスは思ったが、今はそれよりも会話の内容だ。
「鳳凰を葬った、と言っていたな。それに、麒麟も?」
もしかして、と考え始めるアトス。
そう言えば、オトもショウも人間の姿になった。
そして、誰からも疑われていない。
恐らく騎士団の魔法使い等は無意識のうちに鑑定はしているだろうから、その結果も『人』なのだろう。
「このままバレないようにした方がよさそうだな」
そう言って、アトスはオトとショウに話しかける。
「オト、ショウ。聞こえるか」
「うん、聞こえるよー」
「聞こえている」
「しばらくの間、ずっと人間の姿のままで居てくれ。鳳凰や麒麟だと知られない方が良さそうだ」
「ふーん? 分かったー」
「何かあったのか?」
ショウが尋ねる。
「あぁ、ちょっとな。詳しくはまた話す」
「承知した」
万が一、存在がバレると二人が狙われるようなことになるかも知れない。
そう危惧してのことだった。
「さて、と」
アトスの眼の前には、迷宮の入り口がある。
「入ってみるか」
中に入ると、そこはあたかも別世界に来たかのようだった。
草原が広がり、遠くには山や海も見える。
「オト、ショウ、ちょっと面白そうな迷宮を見つけた。来てみないか?」
「行くー」
「行こう」
二人の場所と転移門で繋げる。
「便利だね~」
オトはご満悦のようだ。
「ここは」
迷宮に来たと思っていたら、草原に出てきたので少し困惑するショウ。
「迷宮に入ったら、ここだったんだ」
「ふむ・・・・・・。後ろに見えているのが出口か」
「あぁ。とりあえず、周囲の魔物は一層してみたんだが」
「えぇー、アトス、それはないよ?」
「俺達が来る意味があったのか?」
「い、いや、こんな迷宮、面白いだろ? って・・・・・・すまん」
アトスはしょんぼりしつつ、AIの戦闘モードをオフにする。
「別々に探索しよう」
「うん。何かいたら連絡するねー」
ショウもコクりと頷き、三人はぞれぞれ別の方向へ走っていく。
──
「ところで、あそこに仕掛けていたアレ、何か知っているか?」
「何かおぞましいものが封印されていて、もうじきそれが解けるらしい」
「アメミットやマンティコアみたいなものか?」
「いや、あんなレベルじゃない恐ろしいものだということだ」
「そんなもの、よく手に入ったもんだな」
「あのお方たちが総力を挙げて、ようやく封印に成功したらしい」
「あのお方たちが?」
「あぁ。少しずつだが、時間をかけて数を増やしていっているそうだ」
「それは・・・・・・楽しみだな」
「あぁ」
──
蠢く陰謀に、少しずつ近付いていくアトス達であった。
次話は明日アップ予定
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