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第12話 邂逅2


 10階層目に到達した二人の眼前には、広い空間があった。

 そこは、ジャバウォックと対峙したあの空間に似ている。


「アトス、あれ!」

 オトが前方を指さす。

「あれは・・・・・・」

 探索魔法の範囲よりも遥かに前方。

 小さく映る2つの物体が激しく動いている。

「行こうっ!」

 珍しく、オトが先に走り出す。

 それを見て、アトスは全身強化と持続回復を駆け、オトの後を追う。


「カンテイケッカ」

 AIが自動で鑑定を行ってくれた。


 種 族: 麒麟きりん

 成長度: 幼体

 生命力: 330 / 1,200

 魔 力: 3,129 / 4,800

 スキル: 麒麟(幼体)


 種 族: アメミット

 生命力: 15,481 / 16,300

 弱 点: 尻尾


 麒麟は青白く輝く身体、美しい一本角。ユニコーンに似て非なるもの。

 醸し出される神々しい雰囲気は、どこかオトに似ているような気がする。


 一方、アメミットは禍々しさを身に纏うマンモスのような巨体。ワニのような頭、ライオンのたてがみと前足、カバのような後ろ足を持つ。


 戦いは、麒麟がかなり劣勢のようだ。それは、ステータスからも見て取れる。


「アトス、麒麟に全身強化をかけて!」

「知り合いか?」

「知らないけど、仲間!」

 オトがそう言うのなら、そうなんだろう。

 アトスは逡巡せず麒麟に全身強化と持続回復をかける。

 かなりダメージを受けているようなので、回復もする。


「むっ!? 何者かは知らないが、恩に着る!」

「そいつは何者だ?」

「こやつがこの迷宮の異変の元凶だ」

 そういうことか。ならば、倒すしかない。


 アトスはAIの戦闘機能をONにする。

 途端、おびただしい数の魔法が放たれ続ける。

 見る見るうちに、アメミットの生命力が削られていく。


 追い込まれたアメミットは雄叫びを上げ、魔力を溜める。

 そして、それを空に放った。

 ・・・・・・・・・

 ・・・・・・

 ・・・

 一瞬の静寂の後、轟音が鳴り響く。

 それと共に、アトス達をめがけて大小さまざまな隕石が間髪入れずに降り注ぐ。

隕石メテオかよ!」

 これは避けようがない、と思ったアトスは竜巻トルネード火柱フレイムを同時に放つ!

 (こやつ、複数魔法を同時に放てるのか!? )

 それを見た麒麟は驚愕する。

 AIによる大量の魔法はあくまで連射に過ぎない。

 連射も高等技術ではあるのだが『同時に複数の魔法を放つ』というのは技術云々の次元レベルではないのだ。

 この世界に一人も居ないのではないかという程の、とんでもないことをやってのけたのだ。

 だが、そんなことを本人は知る由もない。


 そんなわざを、とても常人の放つ魔法とは思えない高威力の魔法でやってのけたアトスだったが、降り注ぐ隕石を止めきることはできない。

「くっ、防ぎきれん!」

 オトも聖なる炎を吐き続けているが、焼け石に水。

 ダメか・・・・・・と誰もが思った。


 突然、三人を囲むように障壁バリアのようなものが現れる。

「障壁・・・・・・AIか」

『ハイ。コレハケッカイデス。バリアデハフセギキレマセンデシタ』

 どう違うんだ? とアトスは思ったが、とにかく助かったことに違いはない。

 AI魔法を開発してよかった、と心底思うアトスだった。

 本人の設計よりも遥かに高度なAI魔法が発動したのだが、それも本人が思い描いていたイメージと魔力量、魔力制御のなせる業に違いはないので、アトス自身の成し遂げた結果と言って問題ない。


 さらに、降り注ぐ隕石が尽きると同時に、AIの放つ連続魔法がアメミット本体を再び襲う。


「グオォォォッッッ!!!」

 アメミットは断末魔の叫びと共に、最後の力を振り絞り巨大な炎を吐きだしたが、結界がそれを阻んだ。


「君達のおかげで助かった」

 麒麟が礼を言う。

「なぜアレと戦っていたんだ?」

「その前に、君は鳳凰ほうおうだね?」

 麒麟はオトに尋ねる。

「うん、そうだよー」

「なら、君にも分かる(・・・)んじゃないか」

「そうだね。分かるよ」

「俺にも分かるように説明してくれ」

「すまない。では、聞いてくれ」

 そう言って、麒麟は話し始めた。


 麒麟は鳳凰と同じく『聖獣』だそうだ。

 超長命種で、1,000年以上は平気で生きるらしい。

 だが、とある存在(・・・・・)との戦いで命を落としかけた麒麟は、なんとか生まれ変わることに成功した、と。

 その生まれ変わりがいま目の前にいる麒麟だと。


 生まれ変わった麒麟は、その存在を討つべく調査していた。

 すると、各地で異変を起こしている者達がいることに気が付いた。

 その者達こそが、かつて麒麟を倒したとある存在を操っていた黒幕である、と。

 ここまで聞いたオトが言う。

「ボクも生まれ変わりだよ」

 どうやら、鳳凰オトも似たような境遇らしい。

 記憶は残っていないが、分かる(・・・)のだという。


「復讐したいのか?」

 アトスが問う。

「そうではない。奴らはこの世界を破滅に導こうとしているのだ。それを止めるのが我らが使命なのだ」

「そうだね。ボクもそうだよ」

 世界を守護することが聖獣の使命ということだろうか。

 ならば。

「俺と一緒に冒険している場合じゃないな」

 そう。アトスはただ、楽しんでいるだけだ。

 この世界を。魔法を。そしてプログラミングを。

 崇高な使命を持つ者達の邪魔をするわけにはいかない。


「言ったでしょ。アトスは特別なんだよ」

「ほぅ・・・・・・確かに」

 麒麟が納得する。

 さらに、オトがアトスと主従関係になっていることにも気づいたようだ。

「アトス殿、俺を従者にしてもらえないか」

「えぇっ? 急に言われてもな・・・・・・」

 アトスは困惑する。

 世界を守護するなんて聞いていなければあっさり了承していたかも知れない。

 だが今は、オトとの関係も見直した方が良いのではないか、と思っているのだ。

 そんな状態で、さらに麒麟を従者とするなんて、受け入れられなくて当然だった。


「先の戦いも、アトス殿の力添えがあっての勝利。俺一人では、どうにもできなかった」

「うーん。俺は、世界を守るなんて考えていないんだ。お前達の邪魔をするわけには・・・・・・」

「大丈夫だよっ!」

 戸惑うアトスに、オトが言う。

「それに、もっと強い魔物が居た方が、ぷろぐらむ魔法も楽しくなるんじゃない?」

「そ、それはそうだが」

「ぷろぐらむ魔法?」

 麒麟にも当然理解はできない。

 アトス以外に、この世界に『プログラム』という概念自体が存在しないのだ。


「とにかく、俺を仲間に入れてくれないか。この通りだ」

 深々と頭を下げる麒麟。

「・・・・・・分かった。ただし」

「ありがとう! 恩に着ます、あるじよ」

「その、主ってのは無しだ。アトスで良い」

 こうして、無事に(? )麒麟が仲間になった。


「麒麟・・・・・・って種族名だよな。名前はあるのか?」

「いや、無い」

「何か得意なことはあるか?」

 そう言われて、すぐさま目まぐるしい速さ天地を翔る麒麟。

「恰好いいな」

 翔る、翔、ショウ、これだ!

「ショウ、ってのはどうだ?」

「良い名だ。これから俺は『ショウ』と名乗る!」

 麒麟ショウはすごく嬉しそうだ。

 そして、オトと同じく・・・・・・

 人の姿になった。

 年齢・性別は中学生男子、と言ったところか。

 なにより、超イケメンだ。

 端正な面持ちに青い短髪、青い瞳。

 聖獣ってのはイケメン・イケジョしかいないのか? と半ば呆れ気味のアトスだった。


「さて、これでこの迷宮の異変は元に戻るのか?」

「恐らく戻るはずだ」


 ゴゴゴゴ・・・・・・

 迷宮が今にも崩れそうな音を立て、振動している。


「脱出しよう」

「乗ってくれ!」

 麒麟の姿に戻ったショウの背に、アトスとオトが乗る。

「しっかり捕まってろよ!」

 言うや否や、風のように駆け出す。


「どわーーーっ!!!」

「楽し~♪」


 アトスは振り落とされないように必死でしがみつく。

 一方、オトは無邪気に楽しんでいる。


 曲がり角も速度を落とさずガンガン走り抜ける。

 その度にアトスは振り落とされそうになっていたのだが・・・・・・

 そのおかげで、あっという間に迷宮の外までたどり着いた。


「ところで、ショウ」

 一息ついたアトスが問いかける。


「とある存在について、目星は付いているのか?」

「詳しくは分かっていないが、『アヌグラ・マニュー団』という組織だということは分かっている」

 アヌグラ・マニュー団。

 この世界に来て間もないアトスは当然知らない。

「だが、それ以外のことはよく分かっていない」


「街に戻って聞いてみるか」

 迷宮にアメミットというダンジョンボスが居たこと、それを討伐して迷宮をクリアしたこと等、ギルドに報告したいこともある。

 アトス達は、街に戻ることにした。


 ──


「フォーレに最も近い迷宮に仕掛けた魔物アメミット討伐たおされたようだ」

「なにっ!? アレはSランクでもそう簡単には倒せないはずだぞ!」

「アレを配置するのにどれだけ苦労したことか・・・・・・」

「目的は果たしたのだ。特に問題はない」


 世界にうごめく陰謀。そして、それを主導する者達。

 アトス達はその存在を知らずして、奴等の仕掛けた異変を解決していたのだった。


次話は明日アップ予定です。


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