第10話 AI魔法
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「おぅ、来たか」
クレイドが親し気に声をかける。
「あぁ。何かあるのか?」
「まずはこっちに来てくれ」
ギルドの奥のカウンターに向かう。
そこにはギルドの管理人ミィカと見知らぬ女の子が居た。
「アトスさん、オトさん。ご足労いただきありがとうございます」
「はっ、初めましてっ! 受付嬢のエリーです! よろしくお願いしますっ!」
元気のよい女の子だ。
「あぁ、よろしく」
「よろしくね~」
「じゃ、後はこの二人から聞いてくれ」
そう言ってクレイドは行ってしまう。
「まずはギルドの説明をさせていただきます」
管理人から、ギルドの説明を受ける。
まず、ランクと依頼ついて。
・ランクはEから始まる
・ギルドの依頼をこなすことでポイントが溜まる
・次の二つの条件を満たすことでランクアップする
一つは、直近3カ月のポイントが、ランク毎に決められた基準に達すること
もう一つは、今のランクの一つ上のランクの依頼を達成すること
・受注できるクエストは一つ上のランクまで。これは、無謀な挑戦をして命を落とすのを防ぐためのルールらしい。
次に、街の防衛について。
・依頼の中に、街の治安に関するものも含まれている
・緊急時は街に滞在中の冒険者に出動要請がなされることがある
・出動要請に従わない場合、罰則としてギルドポイントが減点される
「以上です。また分からないことがあれば、私かエリーに聞いてくださいね」
「あぁ、分かった。ありがとう」
「ありがと~」
「早速、依頼を受注しませんかっ?」
「そうだな。今はどんな依頼があるんだ?」
「あちらのボードに依頼票が貼り出されているので、お好きなものを選んで依頼票を持って来てください。受注手続きをします」
「分かった」
壁際の依頼ボードを確認する。
「俺達が受注できるのはE、Dランクの依頼だったな」
依頼はランク別に並べられているため、容易に見つけることができた。
・E:薬草×10の採集(10pt)
・E:毒消し草×10の採集(10pt)
・D:ゴブリン×10の討伐(20pt)
・D:コボルト×5の討伐(20pt)
・D:オーク×5の討伐(25pt)
「なぁ、依頼をまとめて受注することは可能か?」
「はい! 可能ですっ!」
答えながらエリーが走ってきた。
「ただ、期限内にクエストをクリアできない場合、罰則の対象となってしまうので気を付けてください」
「分かった」
「まずはランクを上げてみるか」
「そだね~。何ポイントであがるの~?」
「聞いてみよう」
魔物討伐の依頼票を全て取り、カウンターに向かう。
「魔物討伐を三種類ですね。期限が一週間となっているので気を付けてください」
「分かった。ところで、Dランクに上がるためには何ポイント必要だ?」
「1,000ポイントです」
「依頼の数よりたくさん魔物を討伐しても、決まったポイントしかもらえないよな?」
「いえ。例えば10体討伐依頼の場合、20体討伐すると2回分のポイントを獲得できます」
「よし、じゃあ行ってくる」
「あっ・・・・・・行ってらっしゃい」
受付嬢のエリーは少し心配そうな表情で二人を見送る。
──
「さて、魔物を狩りに行く前に・・・・・・」
アトスは何やら考えているようだ。
そんなアトスを、オトはわくわくしながら見つめている。
「よし、これでどうだ!」
かなりの魔力が流れるのをオトは感じた。
「何をしたの~?」
「AIって言ってな。自分で考えて処理・・・・・・魔法だな。魔法を使うプログラム魔法を作ってみたんだ」
「えーあい?」
「あぁ。ま、後のお楽しみだ」
新しく発動したAI魔法の機能はこのようになっている。
発動条件:魔物探知
機能1:鑑定し、鑑定結果を保存
条件分岐:探知した魔物用の討伐魔法がない場合、開発
機能2:討伐するためのプログラム魔法を発動
※鑑定結果と蓄積データから、必要最小限の魔力を算出
機能3:戦闘結果を記録
その他1:魔力消費量≒処理能力の調整が可能
その他2:プラグイン機能(後から機能を追加・交換可能)
(これと探索魔法を組み合わせて・・・・・・っと)
「よし、出来た」
「教えてよ~」
「探索魔法があるだろ? 魔物を探知したら、さっき発動したAIが動くんだ」
「それでどうなるの?」
「魔物を自動で倒してくれる」
「えぇっ? すごいね~」
「それに、魔物の素材や魔法石も集めてくれるんだ」
「べんりだねー。・・・・・・ねぇ」
「なんだ?」
「遠くの魔物も倒してくれるの?」
「良いところに気づいたな。魔物を探知したら分かるだろ? それと同じ仕組みで、魔力を送ることができるんだ。だから、遠くにいても倒せるってことだ」
「ほぇー。素材はどうやって運ぶの?」
「・・・・・・あ」
「もしかして、考えてなかったとか?」
「あ、いや・・・・・・そういうことだ」
本人も大満足のAI魔法が完成した・・・・・・はずだったが、落とし穴があったようだ。
「せっかく自動で倒してくれるのに、素材を拾いに行くのは面倒だな」
・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・
「これでどうだ?」
アトスは目の前の石を手に取る。
その瞬間、石が消えた。
「あれっ? 石が無くなったよ?」
「ほらっ」
「おぉー、出てきたねー」
「これをAIに組み込んで、っと」
『ソノヒツヨウハアリマセン』
「ん?」
『ワタシハ・・・・・・私は主の魔力で動いています。主と私の魔法はリンクしているため、魔力を使うことに限りますが、主にできることは私にもでき、私にできることは主にもできます』
「AIだよな? 会話できたらいいな、とは考えていたが・・・・・・」
『はい。そのおかげで会話能力が付与されました。ただし、魔力消費量が増えてしまいます』
「確かに、ガンガン魔力を使っている感覚があるな」
『必要に応じて機能を制限します。デハ、コレニテカイワキノウヲセイゲンシマス』
「アトス、どうしたの?」
急に黙り込んだアトスの様子を不思議に思ったオト。
どうやら、アトスとAIの会話はオトには聞こえていないようだ。
「あぁ、さっきのAI魔法だが」
「えーあい」
「思ったよりも遥かにすごいものができたようだ」
「そーなんだ。すごいね~」
そういえば、どれぐらいの魔力を消費したのか確認しておくか。
魔力: 24,575 / 32,767
あの一瞬でかなりの魔力を消費している。
会話を続けているとすぐに魔力が枯渇してしまいそうだ。
「なぁ、オト。またあの迷宮に行こうと思うんだが、どうだ?」
「いいよー。楽しかったし」
アトスは、どうにかして迷宮を攻略したいと考えている。
一度では無理だろうけど、何度か挑戦し、魔法石を準備すれば攻略できるはずだと。
──
二人は、あっという間に迷宮の前まで来た。
「魔物、いなかったね」
「そうだな。探知した反応はあったんだが、すぐに消えて・・・・・・そうか」
「なに~?」
「AIが倒してくれてたんじゃないかと思ってな」
「そうなの~?」
「確認してみる」
そう言って、アトスはステータスを確認する。
魔力: 20,317 / 36,863
やはり魔力を消費している。
「かなりの魔力を消費している。やはり、AIが魔物を倒していたようだ」
『タオシタマモノヲカクニンデキルヨウ、バトルデータハツネニシュウケイシテイマス』
「一時的に会話能力を上げてくれ」
『倒した魔物を確認できるよう、戦闘記録は常に集計しています』
「それは助かる。で、確認はどうすればいい?」
『戦闘記録確認用魔法を用意しています。使うときに確認したい期間をセットしてください』
「分かった」
『デハ』
どれ・・・
【戦闘記録確認】
期間: 街を出てから今まで
討伐数: ゴブリン: 153体
コボルト: 102体
オーク: 75体
取得物: 魔法石(小)×32
その他(魔物素材)
「かなりの数だな」
「何が~?」
「AIが倒した魔物の数だ」
討伐数をアトに伝える。
「えぇー。オトも戦いたかったのに~」
オトは不満げに言う。
「・・・・・・あ」
アトスは何かに気づいたようだ。
「これ、もうランクアップできるんじゃないか?」
『ケイサンケッカ、1,075pt』
確かランクアップに必要なのは1,000ptだったな。
「オト、一旦街に帰ろう」
「・・・・・・分かった」
まだ不満そうだ。
「帰りはAIが魔物討伐しないようにしておく」
「やったー!」
こうして、二人は迷宮の入り口から街へと引き返すこととなった。
──
「依頼の報告をしたいんだが、どうすればいい?」
「はい。討伐依頼の場合、討伐した魔物の素材を確認させていただきます」
「ここに出せばいいか?」
「はい、お願いします」
ドサドサッ!
ドサドサッ!
「こんなところだな」
・・・・・・
・・・
「どうした?」
「あ、あの、これ、全部、ですか?」
「あぁ」
「「「「ええぇぇぇっ!!!!」」」」
「「「「あの短時間で!?」」」」
ギルドに居た全員が驚愕する。
「なにかマズい・・・・・・か?」
もしかして、やらかしてしまったか? と焦るアトス。
「い、いえ。お、驚いただけですので・・・・・・」
「依頼書の分はすべて達成。合計、1325ptですっ!」
アトスはホッと胸を撫で下ろす。
「おめでとうございます! Dランクにランクアップです」
「「「「マジか!」」」」
「「「「最短記録じゃねーか!」」」」
再び、ギルドに歓声が上がる。
「あんちゃん達、すごいな」
「何もんだよあんた達」
驚きと称賛を浴びる二人。
「この男は魔法を覚えて2カ月だそうだ」
クレイドが悪戯っぽく笑いながら言う。
「「「「二ヶ月だって!?」」」」
ざわめく面々をスルーして、アトスはカウンターに戻る。
「今回の報酬です」
銀貨、銅貨が詰まった小袋を受け取る。
「こんなに、いいのか?」
「正当な報酬ですので」
「そう言えば、これでCランクの依頼を受けられるんだったな?」
「はい!」
アトスは依頼ボードに貼りだされた依頼を確認する。
・D:ゴブリン×10の討伐(20pt)
・D:コボルト×5の討伐(20pt)
・D:オーク×5の討伐(25pt)
・C:鉄鉱石×5kgの最終(30pt)
・C:スケルトン×10の討伐(30pt)
・C:ウィル・オ・ウィスプ×5の討伐(40pt)
・C:ホブゴブリン×10の討伐(40pt)
「鉄鉱石、か。気になるが、今は討伐依頼だけにするか」
「受注手続きが完了しました。お気をつけて!」
アトスとオトは、再び迷宮に向かう。
第11話は明日アップ予定。
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