第一話 「女神との出会い」
第一話
目を覚ますと私こと高橋基は草原にいた。
「なんて、きれいなんだ」
思わず声に出してしまった。
だが、声に出たのも当然といえるほど美しく、見ているだけで心が和やかになる。そんな草原が見渡す限り広がっていた。
できるならずっとこの景色を眺めていたい。日々の生活からのストレスが浄化されていく気がした。
「ずいぶんはっきりした夢だなぁ、仕事に疲れて無意識に夢の中で癒されようとでもしたのか?……一度やめるのもありだな」
そんなのんきなことを考えながら草原に寝そべってみて
不意に感じた感触に驚いた。
「え?……この草の感触、リアルすぎない?」
手で触れるとみずみずしく、青臭い匂いが鼻先に漂ってくる。
近くの虫をつかんでみても懸命に逃れようともがいている感触が指先に伝わってくる。
「…本物なのか? これは俺の夢のはずだろ!?」
夢でなければこの場所にいることの説明がつけられない。
しかし、確かにする匂いや現実感のある草や虫の感触、何より夢にしてははっきりしすぎている意識が現実だということを突き付けてくる。
ずっと景色を見ていたいという感情もいつの間にか消え困惑を超えて冷静になってきた。というより、冷静になっている見ると異常事態にもほどがある。早めに現状を把握しておきたい。
「とりあえず何かしら行動しなければな。……ん? あれは?」
周りを見渡してみると少し離れた丘の上に何かあるのが見えた。
目を凝らせてみると三角形のようなものがシルエットで確認できた。
「ほかにめぼしいところもないしな。行ってみるか」
そう思い丘へと足を進めた。
30分ほど歩き、丘の上に行くとティーテーブルがあり大き目のパラソルがあった。
少なくとも人がいるようで安心した。
誰かいないかと先ほどよりも見通しのよくなった草原を見ていると、ティーテーブルのほうから声が聞こえてきた。
「そこの君、お茶はいかがかな?」
驚きながらか顔を向けると、妙齢の女が立っていた。
一社会人としてはすぐに返事ぐらい返すのが礼儀だと分かっているが、
その女があまりにも美しく見え神聖な雰囲気をしていたので、返事ができずに凝視してしまう。
「返事もせずに見つめてきてどうしたんだい?」
「……あっ…わ、私は高橋基と申します。よろしくお願いします!」
「? 質問の返事にはなってないけど、とりあえず椅子に座りなよ」
「…はい」
私は慌ててよくわからないことを言ってしまったことを反省しながら、
ティーテーブルの椅子に腰かけ、妙齢な女は自分の向かい側に座り
お茶を飲みながら質問を投げかけてきた。
「それで、君はなぜここにいるのかな?」
「それはですね……あっ」
これは、もしかして不法侵入について聞いているのだろうか。
自分の意志でここにいるわけではないが、目が覚めたらここにいたなど、信じてもらえるのだろうか。自分だったら絶対に信じない。
けれど嘘をついたところで訳が分からない現状が変わることもないので、正直に伝えることにした。
「その、信じていただけるかわかりませんが目が覚めたらいつの間にかここにいてですね」
「ふむ」
「とりあえず目に入った丘を目指していたのです」
「……」
「あっあの、不法侵入に関しても本当に申し訳なく思っているのですが、私も何が何だかわからない状況ですので通報などは何卒勘弁願えない『信じるよ』でしょうか……本当に?」
「本当だ」
正直に話したとはいえ信じてくれるなんて。
やはり綺麗な子は中身まできれいなのか、と思いながら感謝を伝えようとすると
向こうが口を開いた。
「ありが『だって、君をここに召喚したのは僕だからね』……えっ、召喚?」
「君に頼みがあってね」
召喚とは比喩なのかわからないが、どうやらこの女は頼みがあるからと勝手に呼び出したらしい。
それに加え説明もなしに放置され、挙句の果てには説明に戸惑っているところに疑いの目を向けてきていたのだ。
少し…いやかなりむかついたが、ここは大人としての余裕を持ちながら冷静に対応することにした。
「召喚というのはどういうことでしょうか?」