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第3話

   

 私だって耳栓は使う。例えばコーヒーショップやハンバーガーショップなどで、食べたり飲んだりしながら勉強する時だ。

 図書館で勉強する時も、そこまで騒々しい環境ではないけれど、念のため耳栓を使う場合がある。

 いずれにせよ、私の場合は勉強用だ。周りの騒音を()けて、勉強に集中するために使うのだ。

 一方、天才くんの場合は授業中。もちろん授業も勉強だが、まるで意味が違う。こちらは、教師の話を聞く必要があるというのに……。


 その時は古文だったけれど、その後よく注意してみると、どの教科でも彼は授業中、耳栓をしているようだった。

 普通ならば授業中の耳栓は目立つだろうに、耳まで覆う長髪のおかげで隠れている。いや、おかげというより、そのために髪を伸ばしているのかもしれない。

 ちょっと気になったので、授業が終わったばかりのタイミングで、まだ彼が席を立つ前に声をかけてみた。

「天川君って、授業中も耳栓してるんだね。どうして?」

「えっ……」

 天才くんは目を丸くしていた。私が話しかけたのが、それほど意外だったらしい。

 しかしすぐに驚きの色を収めて、むしろ笑みを浮かべる。耳にかかった髪を軽くかき上げて、黄色い耳栓を強調してみせた。

「うん、この耳栓。これがあれば、凄い静けさの中で勉強できるからね」

「『凄い静けさの中で』って……」

 苦笑いと共に、思わず彼の言葉を繰り返してしまう。

 確かに耳栓は、周囲の騒音をシャットアウトするためのアイテムだ。でも完全なシャットアウトは無理だから「凄い静けさ」も大袈裟だろう。

 そもそも授業中なのだ。もしも周りの音が完全に聞こえなかったら、逆に困るではないか。

「そんなに凄い耳栓だったら……。先生の話、聞こえにくくならないの?」

 私が具体的に尋ね直すと、天才くんは顔を近づけてくる。

 ちょっとドキッとするけれど、それほど親しくもない男の子なので、トキメキというより少し「気持ち悪い」も混ざっていた。

 もちろん天才くんの方では、そんな意識はないのだろう。いかにも「大切な内緒話をする」という様子で、声のボリュームを下げていた。

「その点は大丈夫。これをつけると、必要ない音は耳に入ってこなくなるけど、必要な音はしっかり聞こえる……。魔法の耳栓なのさ!」


「魔法の耳栓……?」

 再び聞き返してしまう。

 小学生や中学生ならばいざ知らず、高校生にもなって何を言い出すのか。私が怪訝な顔をしても、彼は気にせず続けていた。

「うん、まさに魔法だよ。本当は秘密だけど、こうして隣同士になったのも何かの縁。だから優子ちゃんには教えてあげよう」

 急に「優子ちゃん」なんて馴れ馴れしい言い方になり、彼が語り始めたのは……。

   

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