表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/8

第1話

   

「優子! あんた、まだいたのかい?」

「うん、ちょっと寝坊しちゃってね。でも大丈夫、一本遅い電車でもギリギリ間に合うから!」

 母には余裕の態度を見せたけれど、内心ではかなり焦っていた。期末テストの二日目だから、遅刻したら一大事なのだ。

 そもそも「ちょっと寝坊」の原因も、夜遅くまで勉強していたせいだ。しっかり日頃から予習復習していたつもりなので、一夜漬けとは言いたくないが、歴史のような暗記科目は、ついつい前日に詰め込む格好になってしまう。


 朝食は簡単に済ませて、家を飛び出す。食べたばかりでは体に悪いけれど、駅まで全速力でダッシュ。

 ホームに着くと、ちょうど電車が入ってくるところ。母に告げた通り、いつもより一本遅い便だった。

 それに飛び乗り……。

「はあ、はあ」

 荒い息をしながら車内を見回せば、同じ制服がいくつか視界に入る。

 一本遅い分、いつも見る顔ぶれとは違うけれど、同じ高校の生徒の存在は心強い。この電車でもきちんと間に合う、という(あかし)に思えた。

 ほとんどは知らない生徒だが、一人だけクラスメートを発見。正面右側のロングシート、その真ん中あたりに座っているのは天川(てんかわ)才人(さいと)君だ。


 苗字と名前から一文字ずつとって、あだ名は天才くん。同じクラスなのは今年からだが、前々から私も噂は知っていた。そのニックネームに相応しく、学年トップレベルの成績優秀者だという。

 だけどガリ勉タイプではなく、むしろ運動が大好きらしい。確かに教室でも、休み時間になるや否や、仲の良い男の子たちと共に校庭へ飛び出していく。そんな姿をよく目にしていた。

 中肉中背で、目鼻立ちも人並みだろうか。髪は男の子にしては長めで、特にサイドは耳が完全に隠れるほど。長髪男子を好む一部の女子たちにはウケているという。


 同じクラスなので一応は喋ったこともあるけれど、特に親しく話すような間柄ではなかった。わざわざ声をかけに行くつもりはないが、天才くんと呼ばれるほどの彼が期末テスト当日の朝、通学の車内でどのように過ごしているのか、ちょっと気になる。

 そうっと近づいて、適度に離れた位置に立ち、こっそり様子を見てみると……。

 彼はノートを広げて、一生懸命それを読み込んでいた。

 ああ、成績トップレベルでも余裕綽々ではなく、ギリギリまで勉強しているのか。そう考えると微笑ましい気持ちになるけれど、逆にいえば、そういう努力の成果として優秀な成績を維持できるのかもしれない。ならば私も彼を見習おう、と気を引き締めるのだった。

   

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ