94.
「すいません!」
インターホンのボタンが反応しなかったから、
ボクは扉越しに部屋の中へと声をかける。
しかし、誰もボクの声に返答を返してはくれない。
誰もいないのだろうか?
でも、中からはガサゴソとした音が少し漏れているし、人の気配もある。
居留守?
でも、もしキミが家にいるのならば、ボクの声に気が付くだろうし、
ボクに対して居留守なんてことは使わないだろう。
キミが東京の逃避行の結末を根に持っていなければ、だけど。
それに、キミが例えもしボクと会いたくなくない、
と思っていたとしても、
キミはそれをボクに直接言うはずだ。
だからキミが居留守を使っているって信じたくない。
きっとキミは今、家にいなくて、
キミが心底嫌っている保護者が代わりにいるのだろう。
周りの郵便物から察するに、
ボクを取り立て屋と勘違いしているのかもしれないし…。
これ以上ここにいてもな…。
そう思い、ボクはため息をついてここから離れようとした。
「…………」
これはキミの声だったのか。今になっては分からない。
弱音を吐かず、いつも強気でいるキミがこんなこというとは思えない。
もしかしたら幻聴だったのかもしれない。
だけどこの時のボクの耳には確かに届いたんだ。
「助けて」
泣き叫ぶキミの声が。




