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93.

 夏休みぶりに通る少し曰く付きのこの通り。

 あまり治安が良いとは言えないこの地域は、

 どこの国か分からない言葉が飛び交っているかと思えば、

 また違う場所では、

 ボソボソと独り言を話す怪しげなホームレスたちが

 道端で我が物顔で寝転がり、一人昼酌を始めていた。


 夏にキミと一緒に通った時はこんな人たちいなかったのに…。

 もしかして、緊張で周りが見えていなかっただけなのだろうか?


 今朝感じた自信が少しずつ削られていくのを感じる。

 でもそれでもボクは周りにビビってる場合じゃない、と、

 自身を奮い立たせ、胸を張って堂々とこの通りを進んでいく。



 「おい、あんちゃんもこれか?」


 どこかで聞いたことのある声。

 後ろを振り返る。

 そこにはニタニタと不気味な笑いを浮かべるおじいさん。

 その口元の殆どには歯がないが、なぜか奥歯の一か所だけは金色に輝いていた。


 彼は以前と同様に、

 親指を人差し指と中指にはめる不思議な動作をして見せた。


 「最近の中坊は金のあるやつが多いな。

  今、いつもの子らが3人で入ったとこやで。

  まだ暫くあかんやろうし、俺が倍に増やしてやるから金…」


 なんのことか分からないけれど、

 ボクはそのおじいさんの話していることを無視して

 そのままキミの住むアパートへと向かう。


 外には大量のゴミ袋がごみ置き場から溢れていた。


 意を決してアパートの二階へと上がる。

 カツンカツンと音が鳴る階段はあちらこちらが錆びていて、

 本当にここが住居なのか不安を感じさせるほどのもろさである。


 二階へ来た。


 手前から5つ扉があったが、どこの郵便受けからもたくさんの手紙がでていた。

 ボクはつい興味本位で、近くの扉の郵便受けから郵便物を一つを手に取る。


 バサバサバサ


 【催促状】


 紙には赤文字で大きくそう書かれていた。

 郵便物を取ったことで一緒に落ちてきた何枚かのチラシの一つには、

 【夜逃げくそ野郎。〇ね】と書かれている。


 やはり治安がいい場所ではないのだと実感した。


 ボクはあの日の記憶をたどりながら、

 キミが忍び足で入っていったであろう部屋の前へと向かう。


 そこは一番奥の部屋。

 ボクはその扉の前に立ち、インターホンへと指をかけた。


 インターホンらしき白いボタンは少し浮き出ており、

 ボクがそれを押しても…


 か、固い。


 全くびくともしない。


 再度力強く押し込む。


 あれ?


 今度はそのボタンは奥の方へと吸い込まれていき、

 それからもとの場所へと戻ってくることはなかった。



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