91.
ボクは二学期になっても放課後は毎日ネコヤギへと行ってた。
キミがまたふらっと現れるかもしれない。そう思って。
ただ、あの東京への逃避行が尾を引いて、母さんに門限をつけられてしまった。
だから遅い時間までネコヤギに残ることができなかった。
顔なじみの職員さんに、キミが前日来たかどうか毎日尋ねた。
でも、いつも彼らは首を縦に振ることはなかった。
家に帰るとボクは自分自身の勉強より、
キミが勉強に遅れないように、キミの為のノートを作ることに専念していた。
より丁寧に。より分かりやすく。
そしてまた次の日放課後はネコヤギへ。
でもキミはここへ二度と来ることはなかった。
ボクはまるでキミと出会う前の頃のように。
学校から帰って、門限の時間が近づくまでずっと、
ネコヤギのいつものスペースで一人で勉強をし続けていた。
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一方で学校はというと、
もうアイツから虐められることはなくなった。絡まれることもなくなった。
受験が近付き、もうボクにちょっかいをだすほどの暇がないのか、
あるいはボブ女に言われた言葉でもうどうでも良くなったのかは分からない。
興味もないし。
ただ、たまにアイツの取り巻きたちに、
「穴兄弟にも慣れないなんてみじめ」
なんてよく分からないことをニタニタした表情で言われることが増えた。
少しイラっとはしたものの、ボクはその言葉の意味を知らなかった。
だから普通にスルーしていた。
分からない言葉は、調べるべきだった。
そうしたらもっと早くキミを救えたのに…。
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二学期の中間テスト
ボクは校内一位の成績だった。
再度シラガに呼び出される。
アイツはもう成績がガタガタで、
推薦なんてとてもじゃないけれど貰えるような成績ではなかった。
アイツの取り巻きたちも近くの公立ではなく、
私学を目指すとうわさで聞いた。
キミに会えないからか、もうボクは全てがどうでも良くなっていた。
だから、シラガの提案に少し考えることにした。
少し遠いけれど、全く違う環境に身をおくのもいいかな。
興味のある部活もあるし、
人間と関わらず、ずっと空を見上げる高校生活も悪くないかもしれない。
そう、初めて少し心境に変化が芽生えたのだ。
「母さんに相談します」
ボクの初めての保留の回答にシラガは満面の笑みで喜んでいた。




