85.
「ねぇ、ちょっといい?」
震える可愛らしい声に、職員室からでてきたボクは呼び止められる。
げ。なんだか既視感のある光景だ。
お団子頭の隣でボクを睨むボーイッシュな女の子を見て、
ボクはため息を漏らす。
「一体何?」
げんなりとした口調に、さも傷ついた、という表情を見せるお団子頭。
「何、その口調?」とボクに無意味にキレながらも、
「ほら、聞きな」と優しい口調て団子頭に諭すボーイッシュ。
「その、噂だから信じてはないんだけど…その…」
目線が泳いでいる。口調もどもっている。
ああ、この子もあの件について聞きたいんだな、と直ぐに理解した。
「本当なの?東京にその…二人で行って…ラ…ブ…ホテルに泊まったって…」
一体全体、どこからこういう噂って回るのだろうか?
まぁ、噂ではなく事実なんだけれども…。
ボクは世間一般の皆の地獄耳に感動する。
「そうだよ」
ボクは否定する気なんてさらさらなかったから、
普通に肯定した。
瞬間、ボロボロと涙を流す団子頭。
「サイテー」
ボーイッシュはボクにそう暴言を吐く。
なぜよく知りもしない女の子たちにそんなことを言われなきゃいけないのか。
母さんでもないのに、ボクの行動にまで一々口出ししないでほしい。
少しイラっとしたボクはそのまま二人を置いて
この居心地の悪い空間から退散しようとする。
「好きなの?」
彼女たちとすれ違う時、小さな声が聞こえた。
でも、ボクはその問いかけにハッとした。
ずっとキミに対する感情をなんて表現するのか分からなかった。
〝好き〟
キミに対する感情は特別なもの。
ごく一般に普通の友人に抱く好意とはまた別のもの。
ずっとこの感情をなんて表現するのか分からなかった。
でもそうだ。きっとボクはキミが〝好き〟なんだ。
腑に落ちた。温かなこそばゆい思いが胸いっぱいに広がる。
キミを思うと優しい気持ちになる。
「分からない。でも、大切な人だと思う」
でも、ボクの本心を良く知りもしない女の子たちに言うもんか。
だから答えを濁す。
ボクのそっけない返答にボーイッシュは真っ赤な顔して怒る一方で、
団子頭は「そっか」と何か吹っ切れた顔をしていた。
「きっと後悔するよ」




