83.
目が覚めると、電球の灯は消えていた。
窓のないこの部屋は、いったい今が何時なのか、
簡単に体内時計を狂わせるものであった。
「起きた?朝ごはんどうする?」
いつもと変わらないキミに感謝する。
「昨日の残りがまだ少し…」
テーブルの上に散らかっているピザへと視線をやる。
あれ?昨日にはなかったカラフルな色の錠剤のシートが
机にポンっと置いてあった。
「あ、ね。今SDGSとか世間はうるさいしね」
キミはそう言いながら、そのシートを手に取り、
こっそりと懐に隠したため、ボクもそれ以上は何も聞かなかった。
*****
二人で仲良く昨日の余りものを食べ、並んで顔を洗い、歯を磨く。
ボクの目は腫れていた。当たり前だ。昨日あれだけ泣いたのだから。
でもキミはそのことには決して触れずに、
浴槽に干している昨日着ていた服の様子を確認しに向かう。
こうしてボクたちがラブホを出たのは、
丁度チェックアウトの1時間前の事だった。
ビルの外にでると、じわじわと熱い熱気に体が蝕まれはじめる。
もう太陽は高く上り、日が照っていた。
今日も1日熱くなるんだろうな、と感じ、
- 日焼け止めをどこかのドラッグストアのテスターで借りないと…
そう思っていた時のことだった。
?
キミは何故か両手を上げていた。
?
ジージーと蝉の鳴き声が異様にうるさかったのを覚えている。
キミの視線をたどる。
二人の大人がこっちを見ていた。
知り合いなのだろうか?
彼らは一歩一歩ボクたちに近寄ってくる。
?
キミは振り返る。
眉は下がり、苦しそうな苦笑いを浮かべたキミと目が合う。
?
「あ~あ。終わっちゃった」
この言葉の意味を理解すると同時に、男たちに声をかけられた。
「キミたち、高校…いや、中学生かい?学生証か何か持ってる?」
優しい口調話しかけられたのに、
ボクは激しく動揺し、心を抉られた気分になった。
二人の男は警察関係者だったのだ。
最初で最後のキミとの思い出。
こんな結果になってしまったのは
やっぱりボクのせいだよね、ごめんね。
こうしてボクたちの逃避行は終わりを迎えた。




