78.
それから数日後の
頬の腫れもなくなって、熱もすっかり消えた頃。
『遅くなったけど、手を合わせに行きましょう』
母さんのその言葉で、事件について知ることになる。
ピンポーン
外出しようとした時、ちょうどタイミングよくチャイムが鳴った。
扉を開けると、そこには元幼馴染が立っていたのだけれど、
彼の顔が酷く真っ青で、おたふくかぜの時よりもその症状は重く見えた。
『だいじょう…ぶ?』
ボクの問いかけに涙を流しながら、彼は小さく頷いた。
『一緒に行きましょう?』
母さんは彼を優しく抱きしめそう言った。
重々しい空気の中、ボクだけがどこに行くのかも、
なぜみんながこんなに悲しんでいるのかも分からず、
ただただ空気を読んで黙って母さんについていく。
『お線香をあげに来ました』
家に入って、女の子の部屋に通されて息をのんだ。
たくさんの笑顔の写真と、カラフルな手紙。
そして食べきれないほどのお菓子にジュースの山々。
色鮮やかな花に彩られた大きな額縁に飾られている彼女は
最後に別れた時と同じ少し恥ずかしそうな、はにかんだ笑顔を浮かべていた。
そこで知った。彼女がもうこの世にいないってことを。
~~~~~
「そう…」
随分と重たい空気になった。
豆電球の暗さにももう慣れてきた。
「彼女の家からの帰り道、
『あの女の子、河川敷で亡くなっていたのよ』
そう母さんにそう告げられた。
頭が真っ白になるって、初めての事だった」
「たくさん、話聞かれたんじゃない?」
「まぁね。でも、彼女は亡くなった当日他の子と遊んでいたから、
その子の方が良く聞かれたんだと思う。
ボクは、『前日の様子は?』ぐらいの軽い質問だけだったし…」
「そっか。もしウチがアンタの立場やったら、
頭真っ白どころか、皆の言っている意味すら理解できなさそう。
最後にあった時はあんなに元気だったのに…って」
「そうだよね。でも、ボクは違うことが頭をぐるぐるしていたんだ。
夢なのか分からないけれど、気になることがあって…」
ぎゅっとボクの腕を抱き寄せるキミ。
でもボクはキミに対するドキドキよりも、
あの日あの人が変な時間にシャワーを浴びていたことの違和感を思い出す。
あの時のあの出来事は夢の中で起こったことなんかじゃない。
朧気ながらだけれど、本当にあったことの記憶なんだ。
家で。彼女の血を。
あの人が証拠を洗い流した、その時の記憶。




