77.
「ねぇ、それってもしかして…」
キミの声がいつもより、よりハスキーな低い声になった。
ボクは頷く。
「そう。その日彼女は亡くなったんだ」
~~~~~
何やら両親が言い合っている声がする。
まだ頭が痛いけど、少しお腹がすいた気がするし…。
ボクは重たい体をひきずるようにしながら、
リビングへと向かった。
『あんなことがあったのに、どこ行ってたの!?』
『色々あったっていってるだろ!』
『あの子に何かあったらどうするつもりだったのよ!』
『うるせぇ!』
バチン
大きな音が冷たい家に響いた。
『お…かえ…り…?』
両親の不穏な空気を割る様に、
ボクはさも何にも気が付かなかった風を装って、リビングに入った。
なぜ母さんがそんなに怒っているのか分からなかったけれど、
少しの会話を聞くにあの男が母さんの言いつけを守らず、
ボクを置いて暫く外出していたことに腹を立てているようだった。
ボクは別にあの人が家にいなくても特に不便はなかったのだけれど、
何か近くで事件が起こったみたいで、
その事件の最中、あの人が外出していたことに
母さんは不安と心配の感情が混ざり合い怒っていたのだ。
親として子の無事を心配するのはごく自然で当たり前のことだと思う。
だから、あの時何で母さんがあの人に頬っぺたを叩かれたのか、
ボクにはさっぱり理解することができなかった。
『おかえり…』
フラフラしながらリビングに現れたボクを母さんは力いっぱいに抱きしめる。
『ああ、良かった。無事でよかった』
母さんの体は震えていた。
母さんの顔は涙で濡れていた。
母さんの頬は真っ赤に腫れていた。
母さんが何に怯えていたのか、ボクには良く分からなかった。




