76.
「今思えばお互い両想いだって知って、
そのことをあの人に言ったのが駄目だったんだ。
あの時は、ボクの発言が原因で
あんな事件が引き起こされてしまうなんて思いもしなかった」
ボクの話を黙って聞くキミ。
ボクはそれがありがたかった。
ボクはキミに懺悔するように、
あの当時のことを思い出しながら話を続ける。
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冬休み初日、ボクはほっぺたの痛みで目を覚ます。
虫歯?と思ったけれど、ボクの顔を見た母さんが笑いながら、
『おたふくがうつっちゃったのね~』と言ってたから、
その時初めて、おたふくかぜが人にうつる風邪、
ということを知ったんだ。
母さんはその日仕事で、あの人は仕事が休みだった。
だからあの人と病院に行って、薬貰って、
あまり口を開けなくていいご飯を作ってもらって…。
『彼女もおたふくかぜになっているかな?
ボクが誘っちゃったから…。治ったら謝りに行かなきゃ…』
そんな反省をしながら眠りについた。
すっかり日が沈んだころ、喉が渇いて目を覚ました。
『お父さん…水…』
でも、ボクの声に誰も返答を返してくれなくて、
重たい体を引きずるようにしてリビング向かう。
なぜだかそこに、あの人の姿はなかった。
誰もいないその部屋をとても冷たく感じたのは何となく覚えている。
何か買いに行ったのかもしれない。
とりあえず冷蔵庫に入っていた飲み物と共に薬を飲んで、再度寝た。
だから、
まだ夜じゃないのに、誰かがシャワーを浴びていたことも、
その後、誰かが慌ただしく帰宅し、また家からすぐに飛び出したことも、
いつの間にか両親が家にいて、口論していたことも…。
ボクは熱に浮かされていたから、
夢であったのかと勘違いするほど、ぼんやりとしか覚えていなかった。




