75.
「ねえ、もしかしてその子…。いや、ううん。いいや…」
キミは一瞬何かを言いたそうにしていたけれど、途中でやめてしまった。
「どうしたの?」
「ううん。なんでもない」
あの時は幸せだったな。今になってそう思う。
小さな喧嘩があっても直ぐに仲直りしていたし、
ボクはずっとこんな普通の日々が続くと思っていた。
「その後どうなったの?」
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あの後、プリントを彼に届けに行ったボクたちは、
おたふくかぜのせいで、いつもの二倍も大きくなった顔をした彼を
玄関口から遠目に見て大爆笑した。
調子を取り戻した女の子も、
やっぱりいつものように、彼を面白可笑しくからかって…。
でもそんな中、元親友は涙目で怒りながらも、
その口元は若干ニヤついていることにボクは気づいていた。
なんだかんだ彼女と最終日に話せたことが嬉しかったんだと思う。
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「でも、家に帰ってからが問題だったんだ」
「うん」
先ほどまでと打って変わって深刻に話すボクのトーンに合わせるように、
キミの声もより一層低くなる。
きっとキミは今から伝えることが何となく分かっているんだろうな、と思う。
ボクは人の気持ちに鈍感だけど、
キミは人一倍気がつく。賢いな、と素直に感心する。
「家に帰った後、話してしまったんだ。
彼に内緒の話って言われたのにも関わらず、
家族皆で、夕食を囲んでいる時に。
彼が女の子に片想いをしている事。
女の子も、もしかしたら彼の事を好いているかもしれない、という事。
実は二人は両思いで、
女の子は引越ししちゃうけど、それまで付き合うことになるかも。
小学校で初めてのカップル誕生になるかもって」
「うん…」
「ボクは浮かれすぎてたんだ。そのせいであんな事件が起きて、
知らなくてよかったことも、全て世間にさらされてしまうんだ」




