74.
結局、彼はなかなか告白することができずに、
月日は流れていき、二学期の最終日。
彼はあろうことか、おたふくかぜに罹患してしまった。
『プリント、持って行ってくれる?』
当時の担任にそう言われたボクは、何を思ったのか
『よかったら一緒にお見舞いにいかない?』って、
その女の子に声をかけたんだ。
彼女、最初驚いた顔をしていたけど、
『うん、いいよ』って意外にも二つ返事で承諾してくれた。
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「本当にいっつも喧嘩してたんだ。アイツら。
だから彼女に聞いた後、絶対に断られる、って後悔して…」
「でも、OKしてくれたんや」
「うん。本当に意外だった」
「てか、好きな子におたふくの時の顔見られるとか、
想像しただけでも可哀想やねんけど」
ケラケラと乾いた笑いをするキミに、
確かに可哀そうなことしたな、と少し憐れみながら思い出す。
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いつも元親友がその女の子と絡むもんだから、
実際に二人きりで帰る、となると話す話題に困った。
それよりも、男女二人で帰っていることに周りから茶化す声が聞こえて、
失敗した、との後悔の方が強かった。
ボクはすごくその雰囲気が恥ずかしくて、恥ずかしくて…。
なんとかしてこの二人の間を漂う微妙な空気をどうにかしようと、
つい、『ねぇ、アイツのこと好きなの?』って聞いてしまった。
てか、それ以外適した話題が思いつかなかったんだ。
別に彼女と話したい話題なんて全くなかったしね。
でも、ボクの問いかけに彼女は全然返答してくれなくて…。
ふと、心配して横を見ると、真っ赤なリンゴ見たいな頬をして、
涙浮かべていたその女の子がそこにいた。
『ちがうもん。心配してるだけ』
いつも上品のかけらもない言葉遣いをする女の子が、
聞こえるか聞こえないくらいの本当に小さな声でそう呟いて…。
ボクは人の感情に疎いけれど、
”あ、恋する乙女の顔をしている”って、
その時だけは彼女の気持ちがすっと胸に入ってきた。
ボク、その子のことなんとも思っていなかったけれど、
その瞬間は、可愛いって本気で思った。
そして確信したんだ。この女の子もボクの元親友と同じで、
自分の感情を隠すためにわざと喧嘩しているんだって。
あ、これが両想いか、って何かがストンと腑に落ちたんだ。




