72.
「朝8時にはチェックアウトだし、そろそろ寝よ~」
「え、でも…」
煙草の火を消したキミは余程することがなかったのだろう。
さっさと先にベットに入っていってしまう。
ボクはどう行動するのが正解か分からなくなり、オドオドする。
「何してんの?」ため息と笑いが少し混じった声で続けるキミ。
「昨日も一緒に寝たんやからそんな緊張しやんでも」
そう言って隣の空いたスペースをポンポンと叩く。
「失礼します」
ボクはなんとなくそう言って、キミの横に寝転んだ。
横目でちらりとキミを見ると、
バスローブの胸のあたりが少しはだけているのが見えた。
急にキミに”女”を感じる。
「そいえばさ、何も聞かないの?」
「聞いて欲しいの?」
恥ずかしくなって何か話題を。そう思って聞いた質問に、
まさかキミがそう返してくるとは思わなかったから、ボクは言葉を詰まらせる。
「言いたくなかったら言わなくていいよ」
どうしたもんか。ボクは無言を貫く。
「でも、言って楽になるなら聞くよ」
再度考える。
「さっき東京タワーであった男の子と、幼馴染なんだ」
言いたかったわけではない。
でも、一貫して態度の変わらないいつものキミに、
ボクは何だか話したくなった。ボクのことを知ってほしくなった。
いや、心の中でつっかえていたモノを全て吐き出して
ボク自身が楽になりたかったのかもしれない。
キミならばどんな過去でも受け止めてくれるって、
確かな信頼がそこにあったから。
ボクは話を続ける。
いつの間にか部屋の明かりは豆電球になっていた。




