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71.
ホテルのルームサービスを利用することにしたボクたち。
けれどボクは頼み方が良く分からなかった。
だから、食事を選ぶのも、注文するのも、全てキミに任せることにした。
食事の注文はカラオケルームのように壁についた数字の押せない受話器から。
ご飯の受け渡しとその支払いは、
全て入口の隣りにある小さな正方形の扉からだった。
「まるで刑務所みたい」
と呟いたボクに、
「予行練習みたいでええやろ」
とそれすら楽しむキミ。
いったい何の予行練習なのか。ボクは大げさにため息をつく。
ご飯をたらふく食べ終えた後、キミは煙草に火をつける。
ほのかに香るバニラの匂いがこの部屋に充満し、
カビ臭い匂いを上書きする。
「昨日は吸ってなかったろ?」
「色々あって持っていくの忘れていたからね」
ヘラヘラ笑うキミ。
「体に悪いからやめなよ」
「この匂い嫌いなん?」
「そういうわけではなくて…」
眉間に皺寄せるボクの顔をみたキミは、
ボクに言われるがまま煙草の火を消した。
いろんな感情が右往左往したとても濃い一日は
こうして終わりを迎え始めていた。




