66.
部屋の中はカビと衣類の生乾きの臭いで充満していた。
ボクは顔をしかめる。
ラブホとは、花の香りが漂い、豪華な装飾がされているような、
そんな高級ホテルのようなものだと想像していた。
だが現実は全く異なっていた。
実際はこんなにも廃れ、ボロボロな部屋なのか…。
古臭い部屋に少し気を落とすボク。
「もっと高級感があって、綺麗な場所だと思ってた」
つい本音が口からこぼれてしまう。
キミはクスリと笑って「そういう場所の方が多いよ」と答える。
「でも、年確のない場所なんて限られているから…」
キミの返答に理解はする。
ボクたちは中学生。
確かに、普通はラブホなんか来たら補導されるレベル。
なのにボクたちは年齢確認はおろか、顔すら確認されていない。
こんなにも法律に関して緩くて、モラルのかけらもない所だからこそ、
ボクたちは一夜を過ごせるんだ。
「あ」
「何?」
この部屋の備品を物色しているキミを見て今更ながら思い出した。
「探しに行かなくていいの…?」
自分でいっぱいいっぱいだったから、
”見回りおじさん”に会いにいく、という本来の目的を忘れてしまっていた。
「明日行けばいいよ」
キミは優しい。
本当は今すぐにでも探しに、会いに行きたいだろうに。
キミは何事もないように笑ってボクを尊重してくれる。
「だから、明日もう一日つきあってね」
もちろん
キミの優しさにまた涙が出そうになる。
「泣きすぎやろ」
そう言ってタオルをボクの顔に投げつけてくる。
「酷い顔やで。シャワーとりあえず浴びてきーや」
そのタオルもやっぱり、生乾きの雑巾みたいな臭いがした。




