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64.

 真夏にも関わらず少しひんやりとしたカビ臭い建物。


 暗い裏道の中でも尚、

 周りから隠れるように建っているこのビルは見るからに怪しいものだった。

 もしボクが一人だったのなら決して足を踏み込まないであろう場所。

 そこにキミは躊躇せず足を踏み入れる。

 キミから先に聞いていなかったら

 この雑居ビルがラブホテルだなんて思いもしない、そんな古臭い建物。


 中に入ると、少し小綺麗にしているロビーに出迎えられる。

 けれど、そこも変わらずカビ臭い匂いが充満していた。

 そしてその奥には、この建物に全く似合わない

 ショッキングピンクの間仕切りカーテンが見え、

 そのカーテンの下は、ほんの少し申し訳なさ程度に隙間が開いていた。



 キミはそのカーテンへと近づいていき、「休憩します」と中の人に声をかける。

 どうやらここが受付場所らしい。

 

 「6、8、10、12」


 酒焼けの声がカーテンの向こうから聞こえた。

 何やら暗号を呟いているようだ。


 「う~ん。今何時?」


 下から皺くちゃの手が伸びてくる。

 小さな割れた時計が7:56を指していた。


 「とりあえず、10で」

 「7000円」

 

 ラブホの相場は分からないけれど、

 こんな汚い場所で一泊7000円は高いのでは?と思う。


 キミはボクの腕から手を離し、持ってきた鞄から封筒を出す。

 そしてその中からくしゃくしゃの一万円札を取り出した。


 ずっと思っていたけれど、

 何で財布ではなくて封筒なんかを持ち運んでいるんだろうか?


 またショッキングピンクのカーテンの下から皺だらけの手が伸びてきて、

 そのお札を奪うようにして掴む。


 「8時まで」


 ガラス製の鍵と、お釣りの3000円が放り出された。


 「そこのエレベーターで3階」


 パタパタパタ


 スリッパの音が聞こえた。


 え?


 ボクはキミと目を合わせる。

 キミは肩と眉を下げて、微妙な顔をしてフッと嘲笑する。


 どうやら、言いたいことだけ言ってさっさと受付の奥へ下がるのは、

 ラブホ界の常識(※)なようだ。


(※)違います。ちゃんとしているところの方が圧倒的に多いです。

   

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