60.
「え、ちょ…。ちょっと!こんな所でやめなよ」
意外にも元親友が連れていた女の子は
男の腕を揺らし、彼の口から発せられる言葉を制止しようとする。
その女の子がボクを哀れんだり、怖がったり、
或いは野次馬と同様に、
まるで品定めでもするかのような下品な視線を向けてこなかったのが、
何よりも救いだった。
もしかしたら、ただボクに興味がないだけだったのかもしれないけれど…。
一方で元親友はというと、そんな可愛らしい女の子の声を無視し、
周りの視線も気にすることなく、ボクに対して暴言を吐き続ける。
ボクは何もせず、ただじっと言われている言葉を受け入れ、聞くだけ。
だって彼がボクに怒る理由は十分に理解ができるし、
かといって、ボクが謝ったとしても殺された子が戻ってくることなんてない。
だから耐えるしかないと思った。
汚い言葉を浴びせられながらも、ボクは心の中で彼に謝り続ける。
お互い大事な友達だと信じていた。
だから、あの事件の後、
ボクを見るだけで吐くようになってしまった元親友を
これ以上傷つけたくなかった。
きっと、あの日起きた事件のことを
ボクと同様に、いやそれ以上早くに忘れたいと願っているに違いない。
ボクが彼の視界から消えたら、
もう思い出すことなくきっと前に進んでいける、そう確信していたから。
だから、もう二度と会いたくなかったのに…。
偶然とはいえ、
こんなカタチで再会したいだなんてイチミリも思っていなかった。
苦しませて、ごめんなさい。
こんな暴言を吐かせてしまって、ごめんなさい。
ボクのせいで…。ボクのせいで……。ごめんなさい。
悪いのはボクだから。だから…。
黙って言葉の暴力を聞き入れる。
本当はこの場から今すぐにでも逃げ出したかった。
でもボクの足は鉛のように重たくて、全く動いてはくれなかった。




