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58.

 耳の中から心臓の音が聞こえる。


 なんてボクの考えは浅はかだったのだろうか。

 東京に行く、ということは、

 前の学校の友人に会う可能性だってあったんだ。

 なんでそんなことすっかり忘れてしまっていたのだろう。

 今までのボクなら

 そんな当たり前のことに気が付かないわけなんてなかったのに。

 


 冷房が効いている室内で、ボクはただ一人冷や汗をかきはじめる。


 - どうしよう。話しかけてもいいのか?

  でも、気が付かなかったフリなんて、目が合ってしまっているのに…



 今更知らぬ存せぬ、なんて、

 返って気を悪くさせてしまうかもしれない。


 でも、ボクの足は動かない。

 怖い。どうしようもなく怖い。


 元親友の口からどんな言葉が発せられるか見当もつかなかったから。


 もしかしたら、キミに知られるかもしれない。

 苗字を変え、遠くの土地に転校までして隠しておきたかったボクの秘密を。


 そして、もしキミが知ってしまったら、

 ボクを虐めから助けたことを悔やむかもしれない。


 だからどうしてもキミに知られたくなかった。

 ボクの憎くて、辛くて、苦しい記憶。



 元親友はボクと同じく女の子と一緒だった。

 その子は見たことのない女の子。

 同級生なのだろうか?それとも他校の子?


 でもそんなボクの考えをよそに、

 その女の子の手を握り、

 彼は怖い顔を浮かべながらボクたちへと近づいてくる。


 緊張で口が乾く。カラカラだ。言葉が何も発せない。


 ボクはただ戸惑いながら近づいてくる元親友から目が離せないでいた。




 「おい」



 もうボクの知っている元親友ではなかった。

 記憶と違い随分と低い声に、すっかりと伸びた身長。

 あの頃から変わっていないボクに比べ、

 顔にはまだあどけなさが残っているが、もうしっかりとした大人。



 「どしたの?」


 元親友の口が少し開いた時に、後ろからキミがひょっこり顔を出してきた。

 地蔵のように固まって動かないボクを心配したのだろう。

 さっきまでより、明るい声で、明るいトーンで…。


 だけど、それが今は少し辛かった。

 元親友がキミを見て、口を少し歪ませボクを睨んだから。



 ああ、やっぱりまだ許してはくれない。

 彼はもうボクのことを憎しみの対象としてしか見てはくれない。



 ボクは天を仰ぐ。

 そこには何もないただの天井しかない。

 でも、上を見上げるしかなかった。

 目に浮かんだ涙を零さないようにするために。


 

 「はっ。次はその女ってわけか」



 吐き捨てられるようにして元親友からでた言葉に

 ボクの目からは一筋の涙がこぼれ落ちてしまった。



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