57.
トイレの鏡の中に映る自身の青ざめた顔を見る。
こんな顔をしていたのか…
顔に少し水をかけ、その後口の中もゆすぐ。
それにしても、だ。
迷わずにトイレまで来れてしまった自分にかなり嫌気がさす。
当時、父親のことは嫌いではなかった。
何を考えているのか母親以上に分からなかったが、
それでもいろんな場所に連れてきてくれていたし、
良い親だったから、どちらかと言えば好きだったのだと思う。
この東京タワーでの思い出もそう。
父親と過ごした忘れたくても忘れられない思い出の一つなのだ。
- そういえば、キミに転校した本当の理由話してなかったな…
トイレを出る前にボクは自身の頬を両側から叩いて、自分自身を鼓舞する。
こんな青白い顔をしてキミの横に並ぶわけにはいかない。
しっかりするんだ。
今日こそボクはキミに恩返しをするんだから。
「外、もうだいぶ暗いね」
トイレを後にしたボクは、
キミの背中を見つけると後ろからそう話しかけた。
ガラスに反射して見えるキミの顔は
ここに来る前よりもずいぶんと穏やかな表情をしている。
「もうそろそろ不良とやらが街に溢れだすころなんじゃない?」
下品な色をした繁華街へと視線を落とす。
きっとあの光のどこかにキミの探すその人はいるのだろう。
「もうそろそろ行こっか」
ボクたちは出口の方へと振り向く。この場から離れ、新宿に向かう為に。
「え」
時が止まったかと思った。
振り向いたボクの視線の先に、懐かしい顔があったから。
ソイツもボクを見て目を丸める。
まるで幽霊でも見るかのように、その男の目は驚くほど見開かれていた。
「どうしたの?」
突然歩みを止めたボクの背中に顔をぶつけたキミは、
背中越しに心配げな声でボクに問いかけてくる。
でもボクはキミに返す言葉を失っていた。
どうしよう、という焦りが頭を支配していたからである。
ボクの目の前にいた人物。
それはボクが東京にいた頃の一番仲が良くて、
一番気の許せる、頼りになる、大好きだった人。
ボクの元親友だった。




