55.
「次が最後…。うん。”東京”と言えば、東京タワー!!!」
キミは努めて明るく振舞っていった一方で、
ボクの東京タワーまでの道のりは少し重たかった。
キミの願いを叶えるために一緒にここまで来たのにも関わらず、
すっかりそのことを棚に上げて、
ボクだけが東京観光を楽しんでしまっていたことに気づかされたからである。
ボクが楽しんでいた間、キミは一体何を考えていたのだろうか?
ボクは恥ずかしくって、恥ずかしくって、
とてもじゃないけれどキミを直視することなんてできなかった。
「高校生になったら、きっとバイトして返すから」
東京での観光中、キミが全ての費用を払ってくれていた。
アイツにカツアゲされていたのが影響して、
ボクはほぼ無一文状態だったからである。
ボクの言葉にキミは笑いながら言った。
「そんなの別にいいのに」
「ボクはよくない」
「はは。律儀だなぁ」
「自分の分は絶対に自分で払う。キミに負担かけたくないし…」
「そんなの別に考えなくていいのに…。
ウチ、結局自分一人やったらさ、
行動に移すことすら結局しやんかったと思うねん。
やからここまで付いてきてくれただけでも感謝してるんやで」
「そんなことないよ。きっとキミは一人でもやってたさ」
本音だ。
きっとボクがいなくても早かれ遅かれキミはきっと行動に移していただろう。
「そういえばさ…」
キミは急に話題を変える。
「ウチのしたいことばっかりで、キミは楽しんでたん?
ただの苦痛の旅行やったんやったら…」
「楽しかった」キミの言葉を遮りボクは続ける。
「楽しかったよ。本来の目的すら忘れてしまうくらいに…」
「ホンマに?全然笑わへんかったから、少し心配しててん。
本当は嫌々ついて来てくれてたんやったら、どうしよう…って」
「それは…」
前にキミに言ったこと。ボクはもう笑い方なんて忘れてしまってる。
でもその言葉を飲み込んだ。
今キミにそう答えるのはなんだか相応しくない気がして。
「お金返す時までには、練習しとくよ」
笑顔の練習を。と言わなかったけれど、キミは分かってくれたと思う。
「約束ね」
キミは少し困った顔をしてそう返してくれたから。




