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49.

 「でも、おじさんと会った後はどうするつもりなの?」


 名古屋のあたりを通過した頃、

 キミに奢ってもらったお弁当を食べながら

 ボクはキミに問いかける。


 「う~ん。とりあえず話を聞いてもらって、

  できたら保護的なことしてほしいな~って」


 「え、あ…」


 むせそうになるのを堪えて言葉を紡ごうとしたけれど、

 ボクの口からは言葉らしい言葉は出てこなかった。


 ボクは確信していた。

 キミが口に滑らした”保護”という言葉は、

 決して出まかせでもなんでもなく、

 キミが本心から望んでいることなのだ、と。

 でも、やっぱりボクはチキンだから、

 どれくらいキミの話に深く入り込んでいいのか分からなかった。

 繊細な問題に対してどうやって言葉を返すのが正しいのか、

 教科書にはのっていなかったから。

  

 「はは。それより、それ一口頂戴」


 ボクが食べていたお弁当を隣からつまむキミ。

 ボクのぎくしゃくした態度にから元気を振舞うキミが少し痛々しい。


 「保護されるなら…東京とか、その…見回りおじさん経由じゃなくて、

  地域の生活福祉課とかの方がいいんじゃない?

  きっともっと色んな大人が助けてくれると思うけど…」


 勉強で得た知識を伝える。

 キミの助けになってあげたい。それはボクの本心なのだから。


 「あ~ね…」


 でも、キミは言葉が急に重くなった。


 「中学に上がる前の頃ね。

  すごく親身になってくれた先生がいて、色々としてくれたんだけど…」

  キミは窓から見える景色を見ながら話を続ける。

 「正直な言葉を話す未成年よりも、

  嘘も方便の大人の言葉の方が耳障りが良くて、皆大好きだから。

  だから、結局は誰も助けてくれなかったの」


 富士山ここから見えるかな?と

 ヘラヘラ笑いながらお茶をすするキミ。


 「その先生ね、結構人気者だったから…。

  だから、卒業前にいなくなったせいで、

  ウチは腫れ物的な扱いをうけるし、変な噂は流されるし、

  家にはもともと居場所なんてないのにさ、

  更に学校にまで居場所がなくなっちゃたの。


  だから、もう何も信じたくない。

  期待したくもないし、裏切られたくもない。

  

  助けを求めるなら、誰もウチの事を知らないところに行きたい。

  名前も学校も全て変えて、全てをはじめからやり直したい」




 ボクは何といえばいいのか分からなかった。

 キミの心の闇にどこまで足を突っ込んでもいいのか、

 ボクたちの関係がまだあやふやなものだったから。



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