47.
電車に乗るのなんていつぶりだろう?
平日の昼間はこんなにも電車がすいているんだ、
ということに少し驚き、ボクは周りを社内を見渡す。
ひんやりとした冷気がボクの頬に触れる。
「人少ないね。夏休みだから、とか…?」
「さぁ。あんまウチ乗らんから知らん」
キミの顔は今朝がたボクの家を出た時とは異なり、
顔色がずいぶんと自然に戻っていた。
母さんの化粧品を使って作ったあの不自然な肌の色は、
どうやらキミも気に入らなかったようだ。
おそらく家でいつも使用しているものを重ね塗りしたのだろう。
「でも、東京のどこまで行くつもりなの?」
「分かんない。不良がいそうなとこ?」
ボクの問いにキミは首を傾げながら
ニヤニヤした笑みを浮かべてそう答える。
ボクは反対に眉を下げてキミを見る。
「危なくない?」
「でもそういう人がおるところやないと、
おじさん見回ってへんかもしらんし…。
だから、積極的にそういう場所に行かんと…」
「でも約束して。
変な事件に巻き込まれそうになったら、
絶対にすぐに逃げるって」
「心配しすぎやって」
ボクは本日何度目かのため息をついて、
キミのその温かな笑い声を聞いていた。




