44.
キミの家は駅とは逆方向だった。
キミの家に続くこの道はボクにとっては初めて通る道。
”治安が悪い”
と噂されるあまり人気のない場所。
例え強いキミと一緒にいても
このひんやりとした空気を醸し出しているこの場所が
ボクは少し怖かった。
だから、初めて異性の家に行くという大変なイベントにも関わらず、
そんな大事なことすっかり頭からとんでいたのだ。
キミのアパートを見た時、ボクはごくりと生唾を飲んだ。
下町でよく見かけるオートロックがついていないアパート。
外はマナーのなっていないゴミの山。
煙草の匂いなのか、ゴミの匂いなのか分からない。
下水道があがってきたかのようなきつい匂いが鼻につく。
まるで異国のような風景。
そんな街並みの中、ひと際古く壊れそうな建物があった。
それがキミの家だった。
「ちょっとここで待ってて」
そう言って彼女はボクを敷地の外で待機させ、
アパートの二階部分へとカタカタと足早に駆け上がっていく。
どうやら一番奥の部屋がキミの家のようだ。
「見ないでね」
少し強張った顔でそうキミに言われたけれども、
ボクの興味心に勝てなかった。
近くの電柱を壁にして、
そこからボクはキミの後ろ姿をそっと目で追う。
???
なぜかキミは恐る恐る部屋のドアをあけていた。
それはまるで泥棒のように、足を立てないように、
ゆっくりと、ひっそりと。
遠くからキミのその後ろ姿はボクにとっては少し不思議な光景だった。
なぜキミは自分の家に帰るのにそんな忍び足になる必要があるのだろうか?
ボクは首をひねった。
誰か寝ているのかな??
足元で鳩がポッポーと鳴いている声が
この静寂の中耳に聞こえてきただけだった。




