42.
母さんに置手紙を書いた。
”ちょっと出かける。直ぐ帰る”って。
東京に行くとは書いてない。
何時に帰るとも書いていない。
「着替えた?そろそろ行く?」
キミが着替えているボクの部屋に向けてそう声をかける。
そっと少し開いた扉からキミは顔を少し覗かして声を出す。
「化粧してない…」
ボクはいつもの化粧でケバいキミの姿より、今の素顔の方がずっと好きだ。
「何で化粧なんて必要なのさ?そのままで十分綺麗だよ」
思ったことをそのまま口にする。
でも、後で後悔した。キミが顔を真っ赤にさせていたから。
ボクまで恥ずかしくなってしまう。
「いや、でも…。痣が…」
そこで気が付いた。
キミの不自然なくらいまで濃い化粧は、
実はその痣だらけの顔を隠すためのものだった、ということに。
その痣はどうしたの?
何度も思ったこの疑問は言葉に出ることなく、
このまま言葉を飲み込む。
「どうしてもっていうなら、母さんの化粧品借りたら?」
しょうがないからボクはそっと指をさす。
ボクの部屋の一個向こう側。それは、母さんの寝室。
「ごめんね。少しだけ借りるね」
キミは顔を俯かせてそのまま母さんの部屋へと一目散に走る。
「リビングにいるから」
ボクはキミが化粧をしている間、キミの痕跡を消すように
家の中をできる限り掃除して、玄関でキミを待つことにした。




