30.
「おばさんは?」
ずぶ濡れのキミを連れて、
同じくずぶ濡れ状態のボクは、キミをボクの家に招待することにした。
ネコヤギにあのまま放って置くわけにはいかなかったし、
なにより、キミのその顔中にあるキズやアザに心を痛めたからである。
とりあえず、ボクの家でほっと一息ついて欲しかった。
「今日は夜勤。だから…」
「え、じゃあ今は二人きりってこと?」
キミのその問いかけにボクはなんだか急に緊張してきた。
ほんの少し前まではキミが風邪を引かないように、だとか、
その顔の傷跡にふれてもいいのだろうか?いや、ふれないべきか?
でも、触れない方が逆に不自然ではないか?だとかなんて、
一人でモヤモヤとしているだけだったのに、
今この空間にはボクとキミの男女二人だけ、という現実を突きつけられて
ボクの鼓動は激しく打ちなり、余計に緊張してしまう。
「う…ん…。
とりあえず、これ使って雨拭きなよ。ほら、入って」
でもボクは頭を横に振り、邪念を払った後、
バスタオルをキミに差出し、家の中へと招く。
「ありがと」
ボクから渡されたタオルで髪を拭きながら、問いかけてきた。
「でも、おばさんいないのに勝手に上がっていいの?」
一応キミにもそういう遠慮という感覚はあるんだな、
とボクは失礼ながらそう感じた。
「大丈夫…だと思う。
それよりこんな天気の悪い中、
女の子一人で外に放りっぱなしのほうが怒られそう…」
ボクのその声に、
「本当にありがと」と弱弱しい声でそう返答するキミ。
なんだかキミらしくないな、とぼんやりと感じていた。




