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25.

 「お前たちは受験生なんだからな。中学最後の夏休みだからと言って羽目外すなよ」



 明日から夏休みが始まる。


 今回の期末テスト…。平均点以上を一教科も取ることができなかったからだろうか?

 ボクたちが出逢う前の時のように、キミはまた学校に来る頻度が随分と減ってしまった。

 気にすることないよ、とキミを励ましたくても、なかなかキミへと面と向かって言うことができなかった。


 そういえば…。

 あの日キミの目元についていた痣についても何も聞けなかったな、と思い出す。


 キミはもしかしたら、ボクの知らないところで誰かに虐められているのだろうか?暴力を振るわれているのだろうか?


 一つ心配の沼にはまってしまうと、なかなかボクはそこから抜け出せないでいた。


 

 シラガが夏休みの課題のプリントを大量に配り始める。

 ボクはプリントを前から受け取り、後ろへと渡す流れ作業をしながらも、頭の中ではキミのことでいっぱいだった。


 

 キミと会えても殆ど会話ができていないから、夏休みのことについて何も打ち合わせができていない。このままだと、キミと夏休みの期間中、全く会えないかもしれない。


 それは…。そんなのは嫌だ!!!



 「先生!」


 意を決したボクは、ホームルームを終えたシラガが職員室へと戻っていくときに、その教師の後ろ姿に大きな声で呼びかける。


 「もし彼女に届ける資料とかあったらボク、届けに行きます」


 ボクは何とかしてキミに会いたかった。夏休みもネコヤギでキミを待っているよ、と。勉強を一緒にしよう、と。そうただキミに伝えたくて、キミに何とかして会いたい、そう思っての行動だった。


 「あ、お、おう」シラガは大声の似合わないボクに動揺しながらも、「じゃ、頼もうかな」とキミに配布予定だった大量の資料をボクにすんなりと手渡してきた。


 「あの…彼女の家を…」


 「おい」


 シラガにキミの住所を聞こうと声を上げた時だった。後ろから久しぶりに聞こえたアイツの声にボクの背筋が凍る。


 「俺が代わりに持ってってやるよ」


 ボクの声にかぶせてアイツはそう言ってきた。ボクは怖くて後ろを振り向けなかった。でも、何とかしてアイツに向けて声を発す。


 「いや、いいよ。ボクが行く」


 「遠慮するなよ。そもそもお前はアイツの家がどこか、なんて知らないだろう?」


 「え、知ってるの?」


 ボクは驚いて後ろを振り返る。アイツはニタニタした気味の悪い笑みを浮かべていた。振り返らなければよかった、と少し後悔する。


 加え、アイツの言葉にモヤっとした感情が胸に湧き出てきた。アイツはキミの自宅がどこなのか知っているのだ。

 そういえば…。アイツとキミが小学校が同じだったかどうか、そんなことさえ何も知らない。よく考えてみれば、ボクはキミのことなんて何も知らないんだ。


 「よ~く知ってるよ。お前以上に全部、全部知ってる」


 アイツはニタニタした顔を緩めることなく、ボクの手にのっていたキミへの資料を全て軽々持ち上げる。


 「じゃ」


 ボクは空になった自分の両手を見つめる。キミに対して何もできないボクはとても無力。



 なんだかとても虚しい気持ちになった。

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