24.
「ねぇ、あの子。良い噂聞かないよ。もう絡むのはよしといたほうが…」
期末テスト最終日。ようやく全教科のテストが終わった。
ボクはいつものようにさっさと帰り支度をする。その視界の端でぐーっと背伸びをしているキミが目に入った。
そういえば、今日は最後までテスト中に居眠りをしていなかったな…
大きなお世話かもしれないが、ボクは少しキミの成長に誇らしさを感じていた。
ふとボクの視線を感じたキミはこちらを振り返り、ピースサインをしてきた。
どうやら、思ったよりも回答がしっかりと書けたみたいだ。ボクはほっと安堵のため息をつく。
『今日ちょっと早く帰らないといけなくて…』
シラガが教室を去った後、キミは颯爽とボクの前にやってきてそうボクに伝えてきた。
『ごめんね。また明日ね』
キミとの会話を思い出しながらボクは帰宅していた。そんな時だったのだ、そう声をかけられたのは。キミに言われた〝また明日〟という言葉に心躍りながら帰路についている途中だったのに、変に水を差されたボクはうんざりした顔を浮かべながら、そっと後ろを振り返り、声の主へと視線を向ける。
「あの子って?」
そこにいたのは、ボーイッシュなヘアスタイルの女の子だった。ボクはこのボーイッシュな女の子なんて知らない。多分だけど、同じクラスになったことがないと思うし、今まで話したりしたことも記憶にない。けれどもその女の子はボクの目を見てそう言ってくる。
いったい何なんだ?
少し警戒心を抱かせながら、ボクはそのボーイッシュな女の子に問いかける。
「あの子って、あの子じゃん…」
鼻で軽く笑いながら、キミの名前をボクに告げるボーイッシュ。その態度に少しムカッとした。
「君に関係あるの?」
この女の子の意図が分からない。なぜ見ず知らずのボクにそんなことを言ってくるのだろうか?
それに、ボクの中では良い噂とか、悪い噂とか関係ない。だってキミがどれだけ世間から悪者扱いされようと、ボクにとってはたった一人のヒーローなのだから。ボクはボクが知っているキミしか信用したくなかったんだ。
「し、心配してんねん!」
その声でボクは気づく。このボーイッシュ女の隣に、団子頭もいた、ということに。そう言えばこの子と最近よく会うな、思う。
「あの子、パパ活とか、おやじ狩りとか…。悪い噂しか聞かんで?そんなん…。騙され…」
「君はあの子の何を知ってるの?」
「え?」
ポカンとした顔を浮かべる団子頭。正直どれだけ可愛らしい声で言葉を紡ごうとも、その人気者のような風貌でボクに媚びてこようとも、当事者のいないところでキミの悪口を言うこの団子頭のことをボクには全く受け付けることはできなかった。むしろ誰よりも醜く見える。
「何でそんなこと言うの?皆知ってることやで?自分のことを思っていってあげてるだけやのに…」
ホロホロと今度は涙を流しだした。ボクはそんなに強い言葉を放ったわけでもないのに。ただ、ボクの気持ちを彼女たちに問いかけただけなのに、これじゃあまるでボクが悪者みたいである。
「分かるやろ?気持ちくらい気いついてあげえや!」
ボーイッシュが声を荒げボクを責めてくる。
でも、ごめん。二人の言っていることがまるでさっぱり分からない。
キミの悪い噂と、この団子頭の気持ちとどう関係あるのか。ボクはアイツの虐めのせいで、知らず知らずのうちに、どうやらボクは随分と人と交流を取ることが困難になってしまっていたようだ。
それに、確かにキミのことをボクは良く知らない。でも、きっとあの学校でボクが一番今、キミと一緒にすぎしている時間が長いと自負している。
「ボク、急いでるから」
二人に冷たくそう言い残し、その場を去る。
キミがたとえどんな人でも、ボクはキミを信じたい。それに、真実はキミの口からききたいんだ。
そういえば…。
こんなことボクが中学一年の時にも、同じようなことがあった気がする…。
思い出せそうで思い出せない記憶に首を傾げながら、ボクはその場を後にした。