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22.

 「ねぇ、あの子って彼女?」


 帰宅後暫くしてからボクに問いかけてきた母さんの声にボクは少しむせる。

 「ゴホッえっ!ゴホゴホッ…ええっ!?」

 「あら、彼女じゃないの?じゃあ、片思いの女の子とか?ほら、毎回アンタに助けられるってあの子、言ってたからさ…。好きな女の子を助けてあげたいっていうそういう類のものなんだと…」でも、よかったと母さんは続ける。「虐められていたわけじゃないのね…。私の早とちりで本当に良かったわ…」

 母さんは小さな声で自分に言い聞かせるように言っていたのかもしれないが、その声はばっちりとボクの耳にまで届いていた。

 ボクは胸が痛かった。だって意図はせずとも母さんに嘘をついてしまったからである。

 その嘘が母さんの心配を払しょくするものだったとしても、なんだか悪いことをしているような、そんな後ろめたい気分になってしまった。


 「ねぇ、あの子、本当に彼女じゃないの?」


 母さんはボクに同じ質問を再度する。

 「同じクラスの子」

 本当にただそれだけ。

 「片思いの子でもないの?」

 ボクは再度首を振る。

 「そんなんじゃないよ」

 ボクにとってのヒーローだけど、と心の中でぼそっと付け足す。

 「でも、もしそうだとしても…。あの子は駄目よ?お母さんは嫌だもの。あんな化粧がケバい女の子は。服装も派手だし…」




 は…??





 一瞬時が止まった。ダメっていったい何のこと?ボクは母さんの言葉の意味がうまく呑み込めないでいた。だから、ゆっくりと一音一音、ボクは頭の中で整理することにした。


 - もしかして…

 

 母さんがボクに言わんとすることをボクなりに理解し始めたと同時に、母さんに対して言いようのない怒りの感情がフツフツと湧き上がってくるのを感じた。


 そう、ムカついたのだ。


 確かに彼女の化粧はボクも嫌いだ。厚く塗りたくって、苦手な匂いを漂わせてる無意味なものであるから。それにスカートだって。チラチラ見える彼女の細い足にどれだけドキドキさせられたことか。


 だけど…。


 だけど、そんなことでキミの価値を見定められたくはなかった。もっと素敵な人なんだと、本当はこんなボクを助けてくれる救世主なんだ、と。母さんに伝えたかった。だけどボクはすでにキミの嘘に乗っかかってしまっているものだから、キミの本当の姿を伝えることを伝えることができないでいた。母さんにはっきりとそう伝えられたらどれだけ楽だったのだろうか?だけど臆病なボクはキミの真実を飲み込む。だって、もし本当のことを言えば、せっかく安堵させることのできた母さんに、またボクの虐めの問題を思い起こさせることになるからである。

 

 弱いボクは全ての真実を飲み込み、母さんに視線だけで訴えることにした。


 どうか分かった欲しかった。キミは見た目に反して、とても人思いで、優しい子なのだ、と。


 けれど、母さんは血が繋がっていようと、所詮、赤の他人である。口に出して伝えなければ、ボクの感情を、ボクの思いをテレパシーで読み取ることなんてできない。


 でも、ボクは母さんなら分かってくれる、って勝手に期待していた。だから、ボクの感情を理解せず、キミの嫌味をまだブツブツと言う母さんにムカついた。


 「あの服装に、あの見た目。だから変な人に絡まれるのよ。まずは自分が変わらないと…」

 

 もうこれ以上、母さんの小言を聞きたくなかった。ボクは男として、人間として失格だ。自分が虐められていることを母さんに隠すために、キミの悪口を黙って聞いているしかできない。違うって、誤解だって、母さんに訂正することができない。


 そして、ボクの名を呼ぶ母さん。


 母さんの方を振り返りたくなかった。だってボクは理解してくれない母さんにこれ以上ないくらいイライラしていたし、それに…。


 母さんが今からボクに続ける言葉を簡単に想像することができたから。



 「もうあの女の子とは距離を置きなさい。好きでもない子を、あんたが体を張って守ってあげる義理なんてないでしょう?」


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