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19.

 「ちょっと」


 後ろから聞こえてきた、女性に似合わないハスキーボイス。


 キミに頼りっきりになるのはだめだ…。


 分かっているのに、ボクの胸はキミの声を聴いたとたん、歓喜の鼓動を打ち始める。何でここに?という疑問よりも、やっぱりキミはボクのヒーローだ、という確信に近い安堵の方が強かった。それは言葉では言い表し難い喜びでもあった。


 アイツは鬱陶しそうにボクから目をそらし、ボクの背の向こう側にいるキミへと視線を移す。

 アイツがキミの姿を捉えた瞬間はすぐに分かった。なぜならアイツの眉間に深い皺が寄り、口元もピクピクと動き出したから。そう、ロボットのような無表情の顔が崩れ、人間らしい感情を読み取ることができるようになったからだ。


 「にゃにしてんの?」


 続くキミの声は少し頼りない活舌。背中からキミの声を聴いているからこれは想像でしかないのだけれど、きっとまた棒付きキャンディーでも舐めているのだろう。


 シャリ シャリ シャリ


 土のすれる音が聞こえる。キミがボクに近寄ってきてくれている優しい音。


 「ねぇ、そんなに悔しいの?」


 キミは倒れているボクの真横に立つ。キミのボロボロになったローファーがボクの目に入った。。

 

 「まだ分からへんの?ダサいで。やめ~や」

 「うるせぇ、クソブス!」


 ボクへの攻撃の手を緩めたアイツは、それからはキミへと何やら汚い言葉で罵り始めたのだ。

 ボクはその暴言を聞いてはいられなかった。


 男として、キミを守りたい。


 そんな不思議な感情が沸き上がり、まだズキズキと痛む体を動かし、頭を上へと向けた。


 「…」


 でも、ボクの助けはカッコいいキミには必要なかったようだ。

 ボクの視界に映ったキミは、そんなアイツにびくともせず、ただ飴を舐めたまま、軽蔑するような目でアイツを見ているところであったから。


 「お前に関係あんのか!?あ゛あ゛ん!?」

 全く動じないキミに、アイツはより凄んで大声を上げる。けれど、やっぱりキミはいつも冷静に返事を返す。


 「友達やから」


 そうキミは言って何かを鞄から取り出して、アイツの耳元に口元をよせる。

 地面に横たわっているボクにはその様子がよく見えなかった。キミがアイツになんて声をかけたのか分からない。ボクは痛む体を我慢しながら、再度体を起こそうと試みる。


 「無理しなや」


 懸命に立ち上がろうとするボク。

 そんなボクにキミはそう優しく声をかけてくれ、そして一切の躊躇なく。土やほこりで汚れたボクの肩を支えくれた。

 一方でアイツは長い脚をより大きく開いて、颯爽とこの公園から去っていく。どうやら、キミとアイツはボクの見えない間の会話で話をまとめてしまっていたらしい。


 「汚れるから…」


 アイツを追い払う。そんな簡単なことでさえもキミに頼らねばならない、という現実を目の当たりにしたボクは、自分に嫌気がさした。

 だから自分自身にイライラしていたボクの口から出てきたのは、感謝ではなくただキミの服装を気遣うだけの言葉。

 でも、これは本当は気を遣っていたわけではない。ただ、キミに離れて欲しかっただけである。ボクは自分自身に対して、恥ずかしい思いを感じていたから。だからこんなボクに近づいて欲しくなかった。それが本音である。


 けれど、ボクの声をキミは無視する。それどころか、ボクの腕をぎゅっと強く掴んで放さない。


 「帰ろう…?」


 キミの頬から濃い化粧の匂いが鼻についた。やっぱり、この匂いは苦手だな、とボクは過ぎ去っていくアイツの背中を見ながら、そんなことを考えていた。

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