15.
「ちょっとここ座りなさい」
帰宅後、さっさと部屋へ戻ろうとするボクを冷たい声で呼び止める母さん。いつもと違う雰囲気をまとう母さんにボクの心臓は早く打ち始める。
このなんとも言えない緊張感が部屋中にまとっているのは、ボクが数か月前母さんの財布から千円をこっそり抜いた時以来だった。
「ねぇ。本当のことを教えてほしいの」
「本当の事って?」
母さんがボク何を聞きたいのかは何となく分かっていた。だけど、いつもこういった話になると、ボクはとぼけて本心を誤魔化す。
「去年からよね?最近は少し減ったと思っていたのに…」そう言いながら、一昨日洗ったばかりのカッターシャツを母さんはボクの前に出す。「ねぇ、何で隠すの?母さんがそんなに信用できないの?」母さんの瞳は赤く光っていた。声も少し震えている。「また血をつけて…。ねぇ、ただの遊びならアンタがこそこそ母さんに隠れてこれを洗う必要なんてないでしょう?本当のことを言ってよ…」
こんな風に話す母さんが苦手だった。分かってる。心底理解はしているのだ。母さんはボクの心配をしてくれているだけだって。だけど、母さんがボクの本心を理解することなんて決してできないだろう。ボクは助けてほしいなんてちっとも望んでない。むしろ、こうやって母さんに聞かれ、心配をされると、とても情けなく感じ、恥ずかしいとすら思ってしまう。
「この前、母さんの財布からお金を取っていったことと関係あるの?」
「違うよ」
ボクは親不孝者だ。こうして心配してくれる母さんに対してそっけなく返事をすることしかできないなんて。
「お金をとったのは、買いたいものがお小遣いでは足りなかったから」前に母さんに説明した言葉をまるで暗唱しているかのように繰り返し説明するボク。
でもね、母さん。実はボクもボクなりに母さんのことを心配していたんだ。
「血がついていたのは、はしゃぎすぎたから」
女手一つでボクを育ててくれている母さんに、これ以上心配させたく無かったから。心労をかけたくなかったから。
「ほら、受験生だし、最近は勉強して帰ってるだろ?虐めなんかない。心配しないで」
ボクは臆病だ。キミとネコヤギで過ごす勉強の時間をこうしてアリバイに利用する。母さんは納得しない顔だったけど、いつものように心強い言葉を返してくれた。
「母さんは何があっても、アンタの味方だから。話したくなったら話しなさい」