12.
「おい、俺焼きそばパン」
「俺、ピザまん」
「俺、カツサンド」
昨日あれだけ勉強したい、と言っていたキミは、やはり次の日、学校に登校しなかった。期待していなくてよかった、とボクはひとりでに胸をなでおろす。それにしても…だ。ボクが思っている以上に、アイツたちは臆病なのかもしれない。暴言を浴びせられても、暴力を振るわれても毅然とした態度を変えないキミが傍にいた昨日は、なぜかアイツも取り巻きたちも、ボクにちょっかいを出しに来ることはなかった。けれど、キミが登校していない、と分かった瞬間、アイツたちはいつものようにこうしてボクに対しパシリの命令を出しに来る。
「お金ないから無理だよ」
「財布が何言ってんだよ」
母さんの涙やキミの昨日の笑顔を思い出しながらボクはアイツの命令にやんわりと拒否の言葉を述べてみた。でもキミの時とは違って、アイツにはボクのそういう態度はどうやら気に食わないみたいだ。だから、すぐに腹に思いっきり膝を入れられる。
「グホッッッ」
ボクの口から酸っぱい匂いのする液体がこぼれ出る。
こんな時、いつもキミの声がボクの脳裏に浮かぶ。
『なんでやり返さないの?』
でも、ボクはその声を頭を振って払拭する。
ボクは暴力が嫌いだ。
それに、ボクは弱い。例えやり返したとしても、ボクのへなちょこパンチはアイツには効果がないだろうし、きっとその何倍にもなってボクに返ってくるだろう。そんなのは分かりきったことである。だからボクは何も抵抗しない。いつものようにやられっぱなし。これでいいんだ。我慢していればいつか終わるのだから。
「汚ね~」と取り巻きA。
「な~これは?さっき見つけた」と取り巻きB。
「いやだ。やめてよ」
ジンジン痛むお腹をさすりながら、真っ青になるボク。
「ゴキブリは共食いでもしてろ」
アイツはケラケラ笑いながら必死で抵抗しようとするボクを取り巻き立ちと抑えながらその死骸を口に押し込む。
「きたね~。おい、動画とれよ」
ボクの制服で手を拭きながらケラケラ笑うコイツたち。
『ボクが何をしたっていうんだ!』
ポロポロ涙を流しながらその行為を嘆いていると、廊下の奥から声が聞こえた。
「お~い。シラガが探してるよ~」
決してこちらには近づかず、アイツを呼ぶ女の子の声がする。
「進路希望の紙についてちょっと確認したいことがあるんだって~」
「おう。今行く」
遠くにいる女の子にとても優しい声で返事をするアイツ。
「じゃ、また。次は昼休みな」
ニヤリとした笑みを浮かべながらそれだけを言い残して、アイツはボクの背中の上から立ち去って行った。