11.
「ねぇ、前言ったこと覚えてる?勉強教えてよ」
テストも無事全教科帰ってきて、今は来週の三者面談の為に使用する進路調査の用紙が生徒に配られ、ボクもまた、その用紙の一番上に志望校を一校だけ記載しているところであった。そんな時に突然言われたキミの言葉にボクは耳を疑った。
「あれ、本気だったの?」
「フフ。もちろん」そしてなぜか恥ずかしそうに頭を掻きながら、続ける。「それに、実はね、今回のテスト、シラガにカンニングを疑われてん」
「ん!?…ブフォッ…。ゲホ、ゴホッ…」
「そんなに驚くこと~?」
ケラケラ笑いながらキミはボクにテスト結果を見せてくる。
「たった20点前後だったのにね。なんでカンニングなんて疑われたんだか」
キャハハとまだ楽しそうに笑うキミ。
「今回は全体的に、選択問題少なかったからね。ほとんど記述だったでしょ?」
ボクの回答に首を傾げてそれがなんだ?という反応を見せるキミ。正直少しその仕草に不覚にも可愛いと思ってしまうボク。
「ほらさ、選択問題ってなんだかんだ運で当たることはあるけど、記述式だと、知らなかったら解けないからさ…」
キミのテスト回答を指さしながらボクは丁寧に説明する。
それにしても驚いた。ボクと勉強した箇所は漢字や細かな書き間違えがなければ殆ど正解だ。
あんな短時間でこんなにも吸収できるなんて、キミは本当は少し賢いのではないか?そう思ってしまった。
「全然学校に来てないキミが、答えを知ってたことに驚いたんじゃないかな?」
ボクはシラガになって考えてみた。確かに間違いは多いけれどこんなにも記述問題に正解に近い回答が記載されているのならば、カンニングを疑われても無理はない。実際の点数はかなり低いけれども、だってキミはほとんど学校に登校することはないレアキャラ。殆ど授業に参加していない不良娘なのだから。
「そんなもん?教えてもらったこと書いてただけやねんけど…」
不思議ね、と呟くキミ。
「でも、なんで?通信の学校なら、別に今更その…勉強する必要なんてないんじゃないの?」
「いやさ、丸がもらえると嬉しいし…。それに…。もし万が一にでもさ?ウチの頭が良くなれば、寮のある学校とか、もっと別の選択肢も増えるかなって…。ウチな?早く家を出たいねん…」
キミのその消え入るようなの声にボクも考えた。
ボクももし寮のある学校に行ったら、母さんの泣き顔を見なくて良くなるだろうか?心配させずにすむだろうか?
「なあ、お前らできてんの?」
ボクとキミがそんな風に話していた時だった。
アイツがニタニタした顔で寄ってきて、ボクたちをあざ笑う。
でもキミはそんなアイツの冷やかしに、鼻で笑い、めんどくさそうに言葉を落とす。
「可哀そうに。アンタには女の子誰一人寄ってきてくれないんだね」
そんな挑発して大丈夫か?なんて思っていたけど、キミは何も気にしていないみたいだった。鼻歌を歌いながらボクの答案用紙に手を伸ばし、それを感心そうにまじまじと見るキミ。
「丸ばっか」
当たり前だ。ボクのテスト結果はほとんど満点ばかりなのだから。
「チッ」
アイツはキミに無視されたのがよっぽど悔しかったのだろう。
一度舌打ちをして、ボクたちの元から颯爽と去っていく。
「キミが学校に来てる日なら、いいよ。放課後、ネコヤギまで一緒に行って勉強でもするかい?」
アイツの後姿を眺めながらボクはそう提案した。