幕間:王室席専用ホール⑦
「機会と手段は、今の状況ではわからないってことね。
向こうの部屋を精査すれば、なにか証拠が出てくるかもしれないけれど……
じゃ、動機の問題をまとめてみましょうか」
カタリナはぐるりと皆を見回した。
まず、じいっとドニを見つめる。
「ドニ卿、動機アリ。
アルフォンス殿下は恋敵にして、大事な大事な義姉上を苦しめる怨敵だもの」
「……否定はしません」
「ドニ!? なにを馬鹿なことを!」
またしても揉めだした義姉弟を放っておいて、カタリナは次へ行く。
「ノアルスイユとサン・フォン、動機アリ。
理由は、ジュリエットをめぐる四角関係」
「だからお友達ですってば!」
慌てて抗議しようとしたノアルスイユとサン・フォンは、ジュリエットの叫びに再びうなだれた。
「実際にどうかってことじゃない。
わたくし達を取り調べる者がどう見るかってことよ」
そう言われれば、疑われてもしかたないところはある。
ノアルスイユもサン・フォンも口ごもった。
「というか、この件、誰が捜査するんですか?
そのへんのおまわりさんとかじゃないですよね?」
ジュリエットが皆に訊ねた。
「……おそらく、陛下直属の機関になるかと」
困った顔でクリフォードが口にする。
「ぇぇぇぇぇ……
なんかめっちゃ怖そうなんですけど……」
ジュリエットの言葉を否定する者は、誰もいなかった。
「ジュリエットとコンスタンティン卿、動機アリ。
理由は、王家への恨み」
「いや、だーかーらー!」
「この私にそれを言うかね、レディ・カタリナ」
ジュリエットが抗議し、コンスタンティンが不愉快げに眉を寄せる。
「そしてジュスティーヌとわたくし、動機アリ。
理由は、いつまでたっても決まらない王太子妃選定問題」
カタリナとジュスティーヌの視線がぶつかった。
「カタリナ、大切なことを忘れているわ。
アルフォンス殿下が手に取る瞬間まで、あのグラスはレディ・ジュリエットが飲むはずのものだった。
酒に毒が入っていたのなら、レディ・ジュリエットを排除したい者を考えるべきなのよ」
ジュスティーヌは淡々と指摘した。
「だったら、まずあなたよね。
動機もあり、機会もある」
挑発的にカタリナは言う。
「ありえないわ。
少しお話して、すぐに、レディ・ジュリエットは先代陛下の落し胤だと気がついたもの。
レディ・ジュリエットは、アルフォンス殿下の叔母。
仮に、知らずにアルフォンス殿下と熱烈な恋に落ちたとしても、絶対に一緒にはなれない。
しかも、あまり追求されたくなさそうな受け答え方からして、レディ・ジュリエットは父親が誰か、ご存知としか思えなかった」
ずい、とジュスティーヌは一歩前に出た。
「でも、カタリナ、あなたは気づいていなかった。
こんなに長い間、王太子妃の座を争ったあげく、いきなり出てきた男爵令嬢に殿下を攫われるかもしれないと思っていたのはあなた。
もし、本当に狙われたのはレディ・ジュリエットで、アルフォンス殿下は誤って毒杯を飲んでしまったのなら、あなたこそがもっとも有力な容疑者だわ」
しんと静まり返った中、ジュスティーヌとカタリナは互いに睨めつけあった。
怯えたジュリエットが、こそっとノアルスイユの陰に隠れ、ノアルスイユはサン・フォンを盾にする。
「思いつめたあげく、自決用の毒まで持ち歩いていた人に言われたくないわね!」
「その言葉、そっくりお返しするわ。
子供じゃあるまいに、女神ヴェヌーシャの『恋のお守り』なんて持ち歩いていた方!」
ジュスティーヌは、腕組みをして、あからさまに鼻で笑ってみせた。
「なんですって!!
幼馴染だからって、いつもいつも我が者顔をして!!」
ついにカタリナはジュスティーヌを突き飛ばした。
ジュスティーヌはよろめくが、踏みとどまる。
「なにを言ってるの!
『顔がいい』から、殿下を自分のものにしたいだなんて、そんな馬鹿なこと許されるはずがないでしょう!?」
負けずにジュスティーヌがカタリナを突き飛ばし返したところで、「お二人、お二人、落ち着いて!」とコンスタンティンが割って入った。
ドニも加わって、どうにか引き分けたところで、こほんとオーギュストが咳払いをする。
「えー……ところで、どうも私の存在を忘れられているようなんですが。
私の動機は?」
「「あなたは関係ないでしょう!?」」
きああっと眦を釣り上げて、ジュスティーヌとカタリナは同時にオーギュストを怒鳴りつけた。




