ピパロン王国警備隊 第1話 隊長、大変です!
世界に愛を、宇宙にニッコリを!漫画のようでマンガでない大人子供のための1話読み切りのゆるいお話。
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第1話:隊長、大変です!
「隊長!大変です!」
ピパロン王国警備隊の隊長室に、けたたましい声が響いた。机に突っ伏して居眠りしていたトーマ隊長が、びくりと肩を震わせて飛び起きる。
「むにゃ……むにゃ?なんだ、ルミ。朝から騒がしいな。もう昼だが」
隊員服に身を包んだルミ隊員は、血相を変えて一枚のカードを差し出した。
「朝も昼も関係ありません!これを見てください!」
トーマ隊長は渋々、そのカードを受け取る。上質そうな紙には、優雅な筆記体でこう書かれていた。
「親愛なるピパロン王国の皆様へ。
今宵、カムカム美術館に眠る『マシュマロの微笑み』をいただきに参上します。
怪盗オリーより」
「怪盗オリーだと!?」
トーマ隊長の声が、瞬時に真剣なものに変わる。怪盗オリーは、最近世間を騒がせている神出鬼没の大泥棒だ。今まで誰も捕らえられたことがない。
「まさか、ピパロン王国にまで……!」ルミ隊員が焦ったように言う。
「よし、ルミ。すぐにカムカム美術館へ行くぞ!」
トーマ隊長とルミ隊員は、警備隊の車で急行した。美術館に着くと、すでに多くの警備員が周囲を固めている。
館長が血相を変えて駆け寄ってきた。
「トーマ隊長!どうかこの美術館の宝を……!ピパロン王国の威信がかかっています!」
トーマ隊長は顎に手を当て、冷静に状況を見渡す。
「ふむ……。館長、今夜、例の絵画を展示する部屋には、偽物を飾ってください」
「偽物……ですか?」館長が目を丸くする。
「ああ。そして、本物は別の安全な部屋に隠し、我々がそこで監視する」
ルミ隊員はトーマ隊長の意外な作戦に驚いた。
「な、なるほど!偽物を囮にして、本物を守るんですね!私、感心しました!」
「そういうことだ。怪盗オリーも、まさかこちらが本物を移動させるとは思うまい」トーマ隊長は得意げに胸を張った。
夜。
カムカム美術館の奥にある、照明も落とされた薄暗い小部屋に、トーマ隊長とルミ隊員は息を潜めていた。目の前には、厳重に梱包された「マシュマロの微笑み」が置かれている。
時間が経つにつれ、部屋は静寂に包まれた。トーマ隊長は腕組みをしたまま、あくびを噛み殺している。
「隊長、大丈夫ですか?もしかして、寝てませんか?」ルミ隊員が小声で尋ねる。
「ああ。しかし、暇だな。怪盗オリーは本当に来るのか?」
「予告状を出した以上、必ず来るはずです」
トーマ隊長はふと、にやりと笑った。
「よし、ルミ。とっておきの作戦がある」
「作戦、ですか?まさか、私に何か危険なことをさせるとか……?」
「ああ。我々が寝たふりをする。怪盗オリーが絵画を盗みに来たところで、不意を突いて捕まえるのだ!」
ルミ隊員は耳を疑った。
「な、何を言ってるんですか、隊長!そんな作戦、聞いたことありません!絶対に変ですよ!」
「いいからやれ。俺の勘は当たるぞ」
結局、ルミ隊員は隊長の妙な命令に従い、床に寝転がって目をつぶった。トーマ隊長も、すぐに大きないびきをかき始めた。
(まさか、本当に寝てるとは……!どうしていつもこうなんだ、あの人は!)
ルミ隊員は、心の中で悪態をつきながら、気配に集中した。
その時、かすかな物音が聞こえた。窓から、しなやかな人影がするりと侵入してくる。ひらりとしたマントを翻し、シルクハットを被ったその人物こそ、怪盗オリーだ。
怪盗オリーは部屋を見回し、二人の警備隊員が眠っているのを確認すると、クスクスと笑った。
「さすが、ピパロン王国警備隊。警戒心が低いにもほどがあるね」
怪盗オリーは油断しきった様子で、絵画に近づいていく。
(今だっ!)
ルミ隊員は目を見開き、素早く飛び起きた。怪盗オリーに勢いよく飛びかかり、腕を掴もうとする。
「捕まえたぞ!怪盗オリー!逃がしません!」
しかし、怪盗オリーはひらりとかわし、ルミ隊員の脇腹に指を這わせた。
「おっと、熱烈な歓迎だね。だが、僕はくすぐりには弱いんだ!」
「ひゃい!やめて……!くすぐったい!あはははは!」
ルミ隊員は必死に抵抗するが、くすぐりの猛攻に耐えきれず、ついには怪盗オリーから手を離してしまった。その隙に、怪盗オリーは素早く絵画の梱包に手をかける。
「し、しまっ……!」
その時、部屋にトーマ隊長の大きないびきが響き渡った。怪盗オリーは、ちらりとトーマ隊長に目をやる。
「……本気で寝てるのかい、この隊長は」
怪盗オリーはフッと笑みをこぼしたかと思うと、絵画には手を触れず、窓から再び夜の闇へと消えていった。残されたのは、くすぐりの余韻で涙目のルミ隊員と、相変わらずいびきをかくトーマ隊長だけだった。
翌朝。
怪盗オリーが去った小部屋には、一枚のカードが残されていた。
「勇敢なルミ隊員に免じて、今回は見逃してあげよう。
しかし、くすぐりに耐える練習が必要だね。
あと、寝顔が素敵な隊長によろしく伝えておいてくれ。
怪盗オリーより」
「くっ……くやしいです……!なぜ私だけが……!」
ルミ隊員が悔しさに顔を歪めていると、トーマ隊長が呑気な顔で言った。
「ふむ、やはり俺の作戦は成功だったな。怪盗オリーは何も盗まずに去っていった」
「隊長が本気で寝ていたせいで、私が一人で戦ったんですよ!本当に酷い目に遭いました!」
「ん?俺も寝たふりしてただけだが?」
トーマ隊長の言葉に、ルミ隊員は思わず絶叫した。
「本当に寝てましたよ、隊長は!いびきもかいてたじゃないですか!」
トーマ隊長はケラケラと笑い、ルミ隊員はぷんすかと頬を膨らませる。
ピパロン王国警備隊の、騒がしくも平和な日常は、まだ始まったばかりだ。
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