世界が終わる、その前に
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異世界政府公認・大預言者の話をまとめると、次のとおりである。
どうやら大預言者塔の図書館には秘密の部屋があり、そこには異世界に関連した重大な出来事を予言した製作者不明の古書が密かに保管されているのだという。
そしてその古書は歴代の政府公認大預言者、及びに許可を受けた一部の者だけしか見ることができない代物だった。
予言の古書には当時の文体で異世界の未来に関する記述がいくつも書かれており、それは今まで一度もはずれることなく重要な出来事を的中させてきたという。
そんな古書の予言はある記述を最後に終っている。
それは問題の日、つまりは今日『午後六時、異世界の角笛が黄昏の終わりを告げる頃。特殊な天体が落ちてきて、異世界都市『ウェルカナ』と周辺地域の大部分を消滅させる』という内容で締めくくられていた。
だがそれと同時に、古書には『接近するにつれて時間の経過がいつもより遅くなる』というその天体の奇妙な特性、そして天体が落ちてきた時に生き残るための、ほとんどマジナイめいたような方法も載っていた。
それこそが『修道服を身に着けて天に祈れば全員が助かる』というものだったらしいのだ。
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「どうして、そんなに重要なことを事前に皆に報告してくれなかったんですか!」
意気消沈したワイマは大預言者に激しい口調で攻め寄った。
すると彼女は悲しそうに俯いて、小さな声を漏らした。
「我が輩は……。我が輩は、先代の大預言者である、お父様に『古書の存在』を口止めされていたの……。この異世界自体の不利益になるからって。それに、古書に書かれていたといっても所詮はオカルトな予言の類でしょ!? 一部の放送を通して呼びかけても信じてくれない者たちが多かったんだ。だから……。だから!」
「あなたはそれでも大預言者の器なんですか!? このままでは、みんな死ぬかもしれないのですよ!」
「うくっ、ごめんなさい……。今日まで我が輩の勇気がなかったばかりに……。ううううう」
「ごめんなさいなんて今さら謝ったって遅い! だって、もうすでに残り時間は……。くっ」
ワイマは、涙目になる大預言者メテスにさらに厳しい追い討ちを浴びせかけようとする。
「ワイマ、待ってくれ!」
だが、そんなワイマの言葉をロズが遮った。
「っ、何!?」
室内の3人の視線が一斉にロズの方に向く。
「ワイマ。僕にもワイマの気持ちはよく分かる。メテスさんに勇気があれば、僕たちはもっと早くそれに気づいて、遠くに逃げることができたかもしれない。……でもね、ワイマ。よく考えてみてくれよ。メテスさんだって、事前に逃げることができたはずなんだ。でもこの人はそれをしなかった。そして、古書に書かれた唯一の手段で僕たち異世界の住民を救おうと最後まで一応の努力はしてくれた……。だからワイマ、今回の件は誰が悪いなんていうのはないと思うんだよ。これはこういう運命だったんだ。これはまさしく悲劇の結末だといえる。けれど、けれど、僕は最後の瞬間までお屋敷の一員として笑って過ごしたいんだ……だから」
「ロズくん……、きみは」
「ロズ様……」
「だから、ワイマ……、フランチェスカ、きみたちには笑顔でいてほしい」
壁時計の長針が9の数字を指す。
午後六時まで、もう時間はあまり残されていなかった。
「せっかくなら、僕はワイマと最後にいつまでも記憶に残るような景色を見ておきたい。ここに来る前に聞いたんだ。この塔の最上階に美しい庭園があるって噂を」
ロズはそう言うと温かく微笑んだ。
「全く……。ロズくんはどこまで馬鹿なんだ。大馬鹿者だよ……」
そんなロズにワイマは苦笑した。
だが、不思議にも、その心から先ほどまでの不安は取り除かれていた。
「六時まではあと十分ちょっとしかない。もしも最後の時を屋上庭園で過ごすつもりなら急いだ方がいいよ」
大預言者メテスはそういうと修道服のポケットから何かを取り出す。
それは屋上庭園に入るための大きな鍵だった。
「屋上庭園は普段は許可された者しか入れないんだけど……。今日は特別なのさ」
ロズはしっかりとそれを受け取る。
「ありがとうございます。ところでメテスさんは?」
「我が輩はこの部屋にいるつもりだよ。天体落下の瞬間までずっとお仕事だね」
修道帽を整えながら彼女は愛らしく片目を閉じた。
「フランチェスカは?」
ロズは椅子に座ったままのフランチェスカに尋ねる。
「私も大預言者様と一緒にこの部屋でコーヒーを飲んでいようかなと思います。天体よりもお菓子とコーヒーのほうが気になっています」
青い瞳のメイドは最初に出会った時の印象とは違い、最後まで微笑みを絶やさないムードメーカーだった。そしてお菓子好きだった。
「そうか。……行こう」
「うん」
ロズとワイマの2人は部屋を出る。
そして屋上庭園を目指して廊下を走り、最後の階段を駆けていく。
「あ……」
その最中、ワイマは気がついた。
いつの間にかロズが自分の手をぎゅっと握っていることに。




